2011-04-28

ファンタジーが生まれるとき — 『魔女の宅急便』とわたし (角野 栄子) を読む

ファンタジーが生まれるとき―『魔女の宅急便』とわたし (岩波ジュニア新書)
角野 栄子

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岩波書店 2004-12-21
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「ファンタジーが生まれるとき」は「魔女の宅急便」の著者として有名な角野栄子さんによる半自伝です。岩波ジュニア新書として刊行されていますが、内容はぐっと大人向けです。

自伝の始まりは、角野さんが幼い頃に母親を亡くした所から始まります。後の幼少期の体験が、後の作家活動において大きな影響を与えたようです。角野さんは、大きくなってすぐに作家になったわけではありませんでした。英文科を卒業。結婚。1960 年にブラジルへ移住! 2 年後に世界を回って帰国。

帰国後、大学時代の恩師からブラジル暮らしについてノンフィクションを書くことを持ちかけられます。角野さんの最初の本がノンフィクションというのは驚きです。この本は 1970 年に出版されます。その後、しばらく出版からは離れ、ようやく出来上がった作品を持ち込んで出版したのが 1977 年。それからは 1, 2 年に一冊のペースで出版し、1985 年「魔女の宅急便」が出版されます。

本作の出版は 2004 年。「魔女の宅急便」シリーズは全 6 巻で完結しますが、2004 年時点では 4 作目までしか出版されていません。

印象に残ったこと

角野さんが、イギリスの作家ルーシー・ボストンさんの館を訪ねたこと。ボストンさんはグリーン・ノウという児童文学シリーズの作者さんで、私は大ファンなのです。とても羨ましい。

もう一つ、角野さんが作家フィリップ・ピアスさんとお会いしたこと。ピアスさんは「トムは真夜中の庭で」の作者です。そのピアスさんの言葉が印象的。

「ちょっと、見て、あそこ」と草地の果てにある沼を指さした。

あまりにいいお天気だったせいかもしれない。突然沼から霧が立ち上がり、沼のわりの木がうすくかすんできた。その間にも、霧は湧き出すようにひろがり、濃くなっていく。こちら側は信じられないぐらいにお日さまのぴかぴかした光に包まれているのに、むこうはぼーっと暗い。じっと見ていると、ピアスさんがつぶやくようにいった。

「ああいうところから物語って生まれてくるのよね」

他に三つ、付箋を貼ったところがあるので箇条書きで引用します。

  • 「あなただけの本」といって抱きしめるような本に出会うことが難しい時代なんて、本当になんていったらいいのだろう (p.28)
  • 私は自分のために書いているのだ。ワクワクするような時間を持ちたい。そう思ってずっと一人で書いてきたのだった (p.31)
  • あのときが物書きの出発点になっていたら私の人生も相当効率のいいものになったかもしれない。残念だけど、私のストローはねじれていて、ジュースがまっすぐにのぼってこなかった。でもどんなものにも何がしかの贈り物はあるものだ。ねじれたストローにもあったと思う。それは回り道という贈り物だった (p.69)

あとがき

英文学科時代の話には、カポーティ、モーム、マッカラーズといった名前が挙がります。対象読者はもしかしたら、「魔女の宅急便」を読み聞かせるお父さんやお母さんなのかもしれません。

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