2012-02-10

バッハ大全集の比較: Brilliant, Hänssler, Warner

先のエントリーにも書いた通り、Warner のバッハ大全集が予約受付中です。これで、バッハ大全集はワーナー (153 枚組)、ヘンスラー (172 枚組)、ブリリアント (157 枚組) の三つが出たことになりました。

本エントリーでは、この 3 つの大全集の特徴を挙げて、簡単な比較を行なってみます。

The Complete Bach Edition (CD:153+DVD:1)
The Complete Bach Edition (CD:153+DVD:1) Johann Sebastian Bach, Helmuth Rilling : Complete Bach Set 2010 - Special Edition (172 CDs & CDR) [Import from Germany]
Johann Sebastian Bach, Helmuth Rilling : Complete Bach Set 2010 - Special Edition (172 CDs & CDR) [Import from Germany] Complete Edition (Box Set)
Complete Edition (Box Set)

概略

ヘンスラーのボックスは、バッハ研究家ヘルムート・リリングを監修者に迎え、ベーレンライター新バッハ・エディションの楽譜 (リリング自身が校訂) を採用したものです。カンタータ全集はリリング自身が指揮。リリングが担当できない部分は、リリングが信頼する演奏家を採用。録音は全てヘンスラー・レーベルのものを使用しました。非常に統一感のあるバッハ全集です。

ワーナーのボックスは、傘下に置くテルデックとエラートの二大レーベルの録音を利用。足りない分はドイツ・グラモフォン、デッカ、ハルモニア・ムンディ・フランス等の録音をライセンス使用。テルデックやエラートには、レオンハルト、アーノンクール、コルボといった古楽のスペシャリストが多く、統一感こそヘンスラー・ボックスには及ばないものの演奏家の質は高いです。

ブリリアント・レーベルは他レーベルからのライセンス利用を利用して安いボックスを提供することで知られています。最近は、魅力的な新人を発掘して自社レーベルでの録音も行なっているようです。そのため、ブリリアント・ボックスはこの中では一番統一感の薄いボックスでしょう。演奏家も、超一流を揃えているわけではありません (特々、目をみはる演奏にも出会いますが)。ブリリアント・ボックスの魅力は価格が安いことです。玉石混淆なボックスと申しましょうか。

代表曲の演奏者比較

3 つのボックスについて簡単な比較をします。全部は無理なので、代表曲だけです。その代表曲も、私が独断で選びました。代表曲だけでもバッハは無数にあって、調べる体力が持たないからです。ゴメンなさい。

曲名WarnerHänsslerBrilliant
価格23,454 円21,980 円13,300 円
枚数153 枚172 枚157 枚
カンタータ全集 レオンハルト&アーノンクール リリング ルーシンク
ロ短調ミサ アーノンクール リリング ファソリス
マタイ受難曲 アーノンクール リリング クレオベリー
ヨハネ受難曲 アーノンクール リリング クレオベリー
クリスマス・オラトリオ アーノンクール リリング ファソリス
オルガン曲 コープマン ヨハンセン ファユス
ヴァイオリン協奏曲(指揮) アーノンクール リリング シトコヴェツキー
ブランデンブルク協奏曲 イル・ジャルディーノ・アルモニコ リリング ベルダー
管弦楽組曲 アーノンクール リリング クラーク
無伴奏ヴァイオリン ツェートマイヤー シトコヴェツキー ルボツキー
無伴奏チェロ組曲 アーノンクール ペルガメンシコフ テル・リンデン
平均律クラヴィーア ウィルソン レヴィン ベルダー
2声のインベンション ルージイチコヴァ コロリオフ ベルダー
イギリス組曲 カーティス レヴィン アスペレン
フランス組曲 カーティス アルドウェル ペイン
パルティータ ロス ピノック ベルダー
ゴルトベルク変奏曲 レオンハルト コロリオフ ベルダー
音楽の捧げもの アーノンクール ゴルツ他 ネザーランド・バッハ・アンサンブル
フーガの技法 タヘツィ ヒル デルフト

A.アーノンクールはアリス・アーノンクールの略。チェリストヴァイオリニスト。指揮者ニコラウス・アーノンクールの奥さんです。ワーナー全集のヴァイオリン協奏曲でヴァイオリンを弾いています。夫アーノンクールは指揮者であるとともにチェリストでもあります [Thanks]

各論: カンタータ全集

私が知る限り、カンタータ全集は四つあります。レオンハルトとアーノンクールによるもの。リリングによるもの。ルーシンクによるもの。そしてコープマンによるものです。

レオンハルト/アーノンクール盤はワーナーの全集に含まれています。1970 年から 1988 年にかけて録音されました。オリジナル楽器初のカンタータ全集です。レオンハルトの指揮が 1/3、アーノンクールの指揮が 2/3 を占めています。女声を使わず、ボーイ・ソプラノを使っています。

リリング盤はヘンスラーの全集に含まれています。1970 年から 1984 年にかけて録音されました。一人の指揮者による初めてのカンタータ全集です。なお、本全集はモダン楽器で演奏されました。リリング自身が校訂したベーレンライター新バッハ・エディションの楽譜を使って演奏されています。

ルーシンク盤はブリリアントの全集に含まれています。1999 年 4 月から 2000 年 7 月のたった 1 年 3 か月で録音された全集です。オランダの古楽団体を率いて録音されたこの全集、他盤と比べると深みが足りないなどの酷評も聞こえます。粗い演奏もありますが、私はフレッシュな演奏として好きです。

この他にコープマンのカンタータ全集もありますが、これを含むバッハ大全集はまだ出ていません。現在、日本 Amazon では在庫なし。マーケット・プレイスで 42,286 円の値が付いています。米 Amazon では 381 ドル 77 セントで発売中。日本円になおすと 29,700 円ほどでしょうか。輸送費を考えても国内で賃うメリットはなさそうです。

Complete Cantatas
Complete Cantatas

カンタータ全集については、下記掲示板の情報を参考にしました。

各論: 宗教曲

受難曲・オラトリオ・ロ短調ミサなど。ワーナーはアーノンクール指揮で統一。ヘンスラーはリリング指揮で統一しています。二人とも古楽演奏では定評のある人ですから、委せて安心です。ブリリアントは受難曲にクレオベリー、ロ短調ミサとクリスマス・オラトリオにファソリスを採用しました。この二人はアーノンクールやリリングほどに有名ではありませんが、折り目正しいバッハ演奏を聞かせてくれます。あと、ブリリアント全集には珍しいバッハの「マルコ受難曲」(グッドマン指揮) が収録されています。

各論: オルガン曲

ワーナーはトン・コープマン。オルガニストとしてもチェンバリストとしても有名な人です。ヘンスターはカイ・ヨハンセン。恥ずかしながら、この人のプロフィールは見つけられませんでした。ブリリアントはハンス・ファユス。スウェーデンのレーベル BIS からのライセンス供給です。ファユスというオルガニストの名前は初めて聞きますが、BIS は水準以上の録音をするので安心して聞けるかと思います。

各論: 協奏曲・管弦楽曲

ワーナーは面白い感じに揃えてきました。ブランデンブルク協奏曲を演奏するイル・ジャルディーノ・アルモニコは刺激的な演奏をする古楽団体で有名です。管弦楽組曲はアーノンクールで、発売当時、古楽的な演奏で衝撃を与えた名盤。無伴奏ヴァイオリンのツェートマイヤーは最近の新盤が評価の高いヴァイオリニストです。あ、でも、ワーナー盤に収録されているのは旧盤でしょうけど...。

ヘンスラーは管弦楽曲系を無難にリリングの指揮で統一。無伴奏ヴァイオリンは「ゴルトベルク変奏曲」の弦楽三重奏版を編曲したシトコヴェツキーを採用。バッハに定評のある人達を配した感じですね。残念ながら、ベルガメンシコフというチェリストは初耳です。

ブリリアントはヴァイオリン協奏曲にシトコヴェツキーの指揮振り盤を採用。ブランデンブルク協奏曲のベルダーと無伴奏チェロ組曲のテル・リンデンは自社録音です。ブリリアントの自社録音は、有名な人でないですけれども聞いてて楽しい演奏です。

各論: クラヴィーア曲

ウィルソン、ルージイチコヴァ、コロリオフ、カーティス、アルドウェル、ペイン etc. 知らない演奏家が並んでて、自分の知識不足を思い知らされる思いです。ヘンスラーで平均律クラヴィーアやイギリス組曲を弾いたレヴィンはモーツァルトの「レクイエム・レヴィン版」のレヴィンさんでしょか。パルティータを弾くロス(ワーナー)やピノック(ヘンスラー)は古楽界では一目置かれる存在です。ゴルトベルク変奏曲を弾くレオンハルトは言うまでもありませんね。ブリリアントではベルダーが多く弾いていますが、個人的にはちょっと好みに合いません。どうやら、フレンチ・ピッチで弾かれているらしく、それが好き嫌いの分かれになっているのかもしれません。なお、アスペレンは最近売れっ子のチェンバリストです。

あとがき

有名曲の中でも本当に有名なものだけですが選んで、簡単な評を付けてみました。お金があれば、全部買っちゃうと悩まなくていいんでしょうね。そうも言ってられないのが現実。本エントリーが参考になれば幸いです。

14 件のコメント:

  1. ある事の検索でお邪魔しました。
    私、ワーナーの全集は持っていないのですが、それでも疑問があり、余計なことと思いつつ書きます。
    「A.アーノンクールはアリス・アーノンクールの略。チェリスト。指揮者ニコラウス・アーノンクールの奥さんです。」とありますが、彼女はヴァイオリニストですよ。何かの間違いでは?

    返信削除
    返信
    1. ご指摘ありがとうございます。記事を修正しました。
      ニコラウス・アーノンクールがチェロも弾くなどと思ってもみなかったので、先入感で誤ったことを書いてしまいました。

      削除
  2. 非常に参考になりました。ありがとうございました。

    返信削除
    返信
    1. コメントありがとうございます。
      お役に立てて良かったです。

      削除
  3. 各社CDの枚数が異なりますが収録曲目もしくは収録曲数が異なるのでしょうか。

    返信削除
    返信
    1. コメントありがとうございます。
      各社のボックスはの収録曲目はほとんど同じです。これらは「バッハ全集」なので、有名な曲はどのボックスでも収録されています。ただ、マイナーな曲では収録されているもの、いないものがあります。例えば「マルコ受難曲」はブリリアントの全集にしか収録されていません。従って収録曲数も違います。どの曲がどのボックスに収録されていないのかは、CD の数が多くて調べ切れていません。すみません。
      CD の枚数の違いは、1 枚の CD の収録時間が違うため、枚数が多ければ収録している曲も多いとは単純に言えないと思います。

      削除
    2. 参考になりました。ありがとうございました。

      削除