2011-04-18

春秋の名君 (宮城谷 昌光)

春秋の名君 (講談社文庫)
宮城谷 昌光

4062646633
講談社 1999-09-06
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「春秋の名君」は、古代中国の春秋時代に活躍した名君を紹介する本。と思いきや、後半はエッセイ集になっていました。

  • 第 I 部: 春秋の名君 (pp.13-67)
  • 第 II 部: 歴史小説に関するエッセイ (pp.71-148)
  • 第 III 部: 雑多なエッセイ (pp.151-229)

約 230 ページの本に対して、春秋の名君に関する記述は 50 ページほどしかありません。同著者の春秋名臣列伝戦国名臣列伝を思い浮かべていると、あまりの薄さに肩すかしを喰らいます。

春秋の名君

本書で取り上げる君主は 12 人です。50 ページに 12 人ですから、一人頭 4 ページちょっとですね。

名君 12 人の名前と一行プロフィールを書いておきます:

  • 鄭の武公: 東周樹立に尽力
  • 鄭の荘公: 春秋覇者の始まりとも言われる
  • 魯の荘公: 斉の桓公の兄・襄公に父を殺され、復讐する
  • 斉の桓公: 名宰相・管仲を伴い中華の覇権を握る
  • 宋の襄公: 斉の桓公に続こうとするも、楚の成王に破れる
  • 楚の成王: 楚の南方を平定。「楚の地、千里」(史記) と言われる
  • 晋の文公: 19 年の放浪の旅の後、中華の覇権を握る
  • 秦の穆公: 中華統一を目指す。百里奚を抜擢したことで千里の地を得、秦を大国にする
  • 楚の荘王: 「鳴かず飛ばず」の故事で有名。邲の戦いで晋を破る
  • 呉の闔廬: 伍子胥孫武を抱え、当時最強の兵力を育てる
  • 呉の夫差: 父・闔廬を越の句践に殺される。復讐を誓う「臥薪」の故事で有名
  • 越の句践: 呉の夫差に破れ幽閉される。復讐を誓う「嘗胆」の故事で有名

晋の文公は 19 年の放浪生活の中で、斉の桓公・宋の襄公・楚の成王・秦の穆公に厚遇されました。凄い人ですね。呉の闔廬に仕えた孫武は「孫子の兵法」で有名な軍師です。

ほんの数ページの名君紹介ですが、春秋時代の君主は沢山いて混乱しやすいです。一読しておくと春秋時代の本を読む時に役に立つと思います。

道徳律の問題 (p.124)

「道徳律の問題」というエッセイの中で、こんなことを書いています。

イギリスの作家にサマセット・モームという人がいて、かれの『作家の手帳』のなかにつぎのような文がある。

「作家がいかなる主題をあつかおうと、かれ自身の道徳律を示すことになる。そのことが歴史小説の大きな欠点なのである」

そして、宮城谷さんは 逆手をとろうとした。その時代の道徳律を示せば歴史小説の長所となる とおっしゃいます。しかし、宮城谷さんの歴史小説を読むと、春秋戦国時代の「道徳感」はちゃんと表現できてはいるけれども、宮城谷さん自身の「道徳律」は一環して現れているんですね。やはりモームは正しかったということでしょう。これを欠点とまでは言いませんが、歴史小説にとって逃れられない性なのかと思いました。

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