2010-07-06

『海皇紀』最終話を迎える

月刊少年マガジンで連載を続けていた「海皇紀」(川原正敏) が、今号 (2010 年 8 月号: 2010-07-06 発日) をもって完結しました。全 45 巻・連載 12 年という大作は、一本の大きなストーリーを走り抜けて、見事な最後を飾りました。

それにしても、12 年というと長い。今が 2010 年ですから 1998 年に連載が始まったということですね。

当時、作者の川原氏の代表作は「修羅の門」でありました。一言で言えば、格闘家の少年が好敵手に恵まれながら世界の最強を目指す、というお話しでした。マンガにおける王道の格闘マンガ。敵が強ければ主人公も燃える。シンプルな構図でした。

そんな川原氏が新しく始めた「海皇紀」は、最初から「伝説の兵法者」は出てくるは、主人公は同じ位いに強そうだわ。で、まあこの二人は最後に闘うんだろうと思っていたわけです。ところが、「修羅の門」と同じ作者かと疑うほどに「海皇紀」は違いました。まず主人公の掘り下げ具合が違う。瓢々として、強いのに闘わない。自分は怠け者と呼び、ペテン師と言って憚らない。観察力が鋭く、知恵が回り、周りを固める仲間も一人一芸に秀でるくわせ者ばかり。最初はザコばかりを一蹴していた主人公ですが、「王海走」の辺りから闘いの質も向上 (いや、王海走はヨット・レースなんですけどね。おそらくマンガ史上、これを越えるヨット・レースはないでしょう)。ストーリーもより複雑化し、最後の決戦に向かって敵方の人間も揃ってくる。海戦勝負で一敗した船長は地の利と新たな策と魔道の兵器をもって、剣を切られ敗れた武人は日本刀にも劣らぬ剣を携えて、人望と自信のなさで敗れた策師は地位と全軍の指揮権と優秀な人材を得た上、敗戦から自信を培って再戦に望みます。

結局、伝説の兵法者と主人公が剣を交えることはなく (「修羅の門」の作者とは思えない!!)、私の予想を上回るストーリーが展開されました。物語に魅力がありました。物語を彩る人物に華がありました。「海皇紀」の素晴らしさは、人物の深みとストーリー・テーリングの巧みさにあったと思います。

どこかのインタビューで川原氏は「海の三国志」をやりたいなんてことを言っていたと思うのですが、その言葉に恥じない名作でした。

最終話は、主に主要登場人物の後日譚が中心ですが、後味のすっきりとしたこれ以上ない最終話でした。読み終えた喜びの中に、一抹の寂しさが残り、「海皇紀」は静かに幕を引きます。

月刊 少年マガジン 2010年 08月号 [雑誌]

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講談社 2010-07-06

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