2011-04-15

「チャーリーとチョコレート工場」「ガラスの大エレベーター」(ロアルド・ダール)

児童文学として名高い「チャーリーとチョコレート工場」(Charlie and the Chocolate Factory) とその続編「ガラスの大エレベーター」(Charlie and the Great Glass Elevator) を読みました。作者はロアルド・ダール (Roald Dahl)、訳者は柳瀬尚紀です。

チョコレート工場の秘密

チョコレート工場の秘密 (ロアルド・ダールコレクション 2)
ロアルド・ダール クェンティン・ブレイク

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評論社 2005-04-30
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「チョコレート工場の秘密」の原題を直訳すると「チャーリーとチョコレート工場」になります。

チョコレート作りの天才ワンカ氏。彼の作ったチョコレートは大きな売り上げをあげますが、産業スパイによってどんどんとレシピを盗まれてしまいます。嫌気がさしたワンカ氏はチョコレート工場を閉鎖。職員も全員解雇してしまいました。ところがある日、工場がチョコレート生産を再開したのです。職員もなしにどうやって? ただ、工場からチョコレートが出荷されるだけの毎日。皆の疑問は募ります。しかし、ワンカ氏は世捨て人の様に工場にとじこもって、姿を現しません。そんなある日、5 人の子供 (とその保護者 1, 2 名) を招待する、とのアナウンスがありました。

チャーリーは「5 人の子供」の一人としてワンカ氏のチョコレート工場に招れます。チョコレート工場に招かれた子供達は、子供にありがちな我儘を通して一人一人と姿を消してゆきます。気がつくと、チャーリーだけしか残っていませんでした。

この物語は、子供の我儘と育て方を間違えた親に対する強烈な風刺が入っています。例えば、テレビ好きのマイク・テービーが脱落した後、こんな歌が歌われます。

テレビは五官をだめにする!

テレビは想像力をぶちこわす!

テレビは心をかきみだす!

テレビは子どもをなまくらにする、めくらにする

子どもは、理解できなくなるんだ、空想のおとぎの国が!

子どもの脳ミソは、チーズみたいに、グズグズになる!

考える力は、さびついて、カチンカチンになる!

頭で考えられない —— 目で見るだけだ!

(中略)

では、大きな声で、ゆっくりと、いいましょう……

子どもたちは……むかしから……本を……読んで……たのしんだのさ! 本を、読んで、また読んで、

読んで、読んで、読みまくる、いや、おどろいた、たいしたものだ!

子供にとっては楽しい冒険小説ですが、大人になって読み返してみると耳に痛い言葉が満載です。だから映画版は大人にも楽しめると言えます。映画版は、原作をほとんどいじることなく素晴らしい作品に仕上がっていますよ。

ガラスの大エレベーター

ガラスの大エレベーター (ロアルド・ダールコレクション 5)
ロアルド・ダール クェンティン・ブレイク

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評論社 2005-08
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「ガラスの大エレベーター」は「チャーリーとチョコレート工場」の直後を描いた続編です。ここで言う、ガラスの大エレベーターは、前作に登場したチョコレート工場内を上下左右に動くことができる特別なエレベーターのことです。「大エレベーター」とありますが、原題名は Great Glass Elevator ということで「大きな」エレベーターではなく「すごい」エレベーターと解釈するのが正しいですね。

事実、このエレベーターはチャーリー一家を乗せて宇宙にまで飛び出してしまいます。そして、宇宙ホテルに行ったり、宇宙人 (クニッド) を撃退したり、クニッドに襲われた宇宙船を助けたりします。大活躍ですね。

さて、本作も痛烈に風刺の利いた作品です。前作の風刺の対象は「子供」でしたが、今回の対象は「大人」です。それも親バカな大人ではなく、充分に歳をとった大人です。それはアメリカの大統領であったり、80 歳を過ぎようかというチャーリーの祖父母だったりします。どんなに歳をとっても自分本意にしか行動しない愚かさを、おもしろおかしく描いています。

旧訳について

「ガラスの大エレベーター」の解説は訳者の柳瀬尚紀さんが書いています。その中で、旧訳 (訳者: 田村隆一) の誤りを指摘しています。

ワンカさんの登場シーン。旧訳はこうでした:

それにしても、なんと、小さい人なんでしょう!

この文に対する原文は以下の通りです。

And what an extraordinary little man he was!

一見正しい訳に見えますが、違うんだそうです。ここでの「little」は後ろの「man」にかかるのではなく、前の形容詞「extraordinary」にかかり書き手の感情 (親しみ、愛情、非難など) を込めているのだそうです。

そういえば、映画版のワンカ (Wonka; 映画版字幕ではウォンカ) は背の高さは普通でした。あれは原作をないがしろにしたのではなく、単に原作通りにしたのでしょうね。

訳者の柳瀬尚紀さんは日本人が誤読しやすい英語をとりあげている新書「猫舌流 英語練習帖」を書いています。こちらも是非読んでみたいものです。

猫舌流 英語練習帖 (平凡社新書)
柳瀬 尚紀

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平凡社 2001-06
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あとがき

チャーリー二部作は、子供が読むには楽しく、大人が読むと考えさせられる良書です。こういう児童文学を小さい頃読まなかったことが惜やまれて仕方がありません。少し歳をとりましたが、遅まきながら本書を読めて良かったと思いました。

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