2011-04-19

七回死んだ男 (西澤 保彦)

西澤保彦の「七回死んだ男」 を読みました。SFはこれを読め! (谷岡 一郎) で気になっていた本の一つです。ユーモアたっぷりな SF ミステリーでした。

七回死んだ男 (講談社文庫)
西澤 保彦

4062638606
講談社 1998-10-07
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ミステリーの紹介というのは難しいですね。とても面白い、と伝えたいのですが、そこを書くと伏線に引っかかってしまいそうです。上手く種明かしをせずに、ミステリーの面白さを伝えるにはどうすれば良いのでしょう?

無難に本の裏にある紹介をコピーしましょう。

幾度も繰り返される殺人。殺されるのはいつも渕上零治郎!? それは、現実の出来事!! だが、それを認識できるのは孫の久太郎 (ひさたろう) だけ。時間の "反復落とし穴" に嵌まり込んだ久太郎が、祖父の命を救うべく孤軍奮闘するが……

おっ。少し紹介の切り口が見えてきました。まず、「時間の "反復落とし穴"」というのが SF のミソです。これは主人公・久太郎の体質で、1 日 (0 時から 24 時まで) が 9 回繰り返されるというものです。久太郎がこれを能力と呼ばず体質と呼んでいるのは、「時間の "反復落とし穴"」に嵌まる日を自分で選べないからです。ある日、起きると昨日の繰り返しになっている。その時、初めて「ああ、また反復落とし穴に入ったな」と認識するのです。そして 9 回目のターンが最終稿として残り、久太郎は翌日へ進むことができるのです。

「幾度も繰り返される殺人」というのは、そういうことです。久太郎が反復落とし穴に入ったその日、祖父が死んでしまうのです。ところが、問題は簡単ではありません。というのも、久太郎主観による 1 回目では祖父は死ななかったからです。「反復」とある通り、一日が巻き戻されると、翌日、久太郎以外の人間は前ターンと同じ動きをします。だから、この「反復」の中で自由意思を持つのは久太郎ただ一人なのです。ということは、久太郎が 1 回目とは違った行為を取った結果が積み重なって祖父が死んだことになります。さあ、どうすれば祖父の死を防ぐことができるのか? 9 ターン目までに「祖父が死なない自分の行動」を決めないと、祖父の死が決定稿になってしまいます。

推理小説の大半は「Who done it? (誰が殺したか?」物と言われています。本作は、誰が殺したかを探りつつ、いかに殺人を防ぐかを模索するという、異色のミステリーに仕上がっています。しかも、SF 仕立てです。こういうジャンルを SF ミステリーと呼びます。アシモフのファウンデーション・シリーズ、ハインラインの「夏への扉」、J. P. ホーガンの「星を継ぐもの」など SF ミステリーな作品も少なくはないのですが、本作はこれらに匹敵する程に見事に仕上がった SF ミステリーです。

本作の面白みをもう一つ言えば、一種のタイムトラベル物になっていることでしょうか。久太郎は「時間を遡る」わけで、未来を知っているわけです。そこでポロリとこぼす言葉に、周りが驚いたり感心したりするんです。これがまた、久太郎ばかりに有利なわけじゃなくって、知らなくても良かったことを知っちゃったり。実にユーモアたっぷりな点が胸をくすぐります。

ミステリー・ファン、SF ファンには間違いなくお勧めできる一品です。

2 件のコメント:

  1. みなも11:56 午後

    作者 西澤さんのポテンシャル

    西澤さんの作品は結構面白い割に、意外に知られていない気がしますね~。
    いろんなサイトで感想とか読んでいると、次は何を読むか悩みますが、
    http://www.birthday-energy.co.jp/
    ってサイトで、作者の西澤さんを評価する記事を見つけました。
    相当変わり者らしいですよ・・・。

    新作短編集の『ぬいぐるみ警部の帰還』を読んでみましたが、こちらも面白かった。
    読後感も良い感じでした。脱力系も悪くないです。

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    1. みなもさん、コメントありがとうございます。

      > 西澤さんの作品は結構面白い割に、意外に知られていない気がしますね~。

      意外です。もっと知られてもいい作家さんですよね。って、わたしも殆ど西澤さんの作品を読んでません。これを機に図書館で西澤作品を漁ってみます。

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