2011-04-06

太公望 (宮城谷 昌光)

太公望〈上〉 (文春文庫) 太公望〈中〉 (文春文庫) 太公望〈下〉 (文春文庫)

太公望は封神演義の主人公でもありますから、知らない人はいないでしょう。でも念のため解説しますと、商王朝を減した周の軍師です。周の文王に「(魚は) 釣れますか?」と聞かれ、「今、大魚がかかったところです」と応えた伝説でも有名です。文王は打倒・商王朝を目指し国力増強を果たしますが、さあ決戦という前に亡くなります。後を受けたのは次男の武王で、牧野の戦いで商王朝軍を破ります。しかし、武王は周王朝樹立後二年で世を去ります。第二代の王は武王の子・成王です。太公望は文王のために富国強兵を行ない、武王の軍師として立ち、幼い成王を後見します。

本書「太公望」は封神演義ではなく史実側の殷周革命を描いた歴史小説です。太公望は文王に迎えられるまでの足跡がはっきりしません。羌族の出身とも言われますが、当時の羌族は古来ながら遊牧する族と定住する族とに分かれています。また、肉屋を営んでいたという話もあります。妻に離縁され、出世後に復縁をせまられて「覆水盆に返らず」という故事の元になったとされます。また文王に迎えられるまでは、ずっと書物を読んでいたともあります。

小説「太公望」は、そんな太公望像において史料から誤りを正しつつも、文王と出会うまでの彼の生き方を想像豊かにふくらませています。生まれは羌族の遊牧民とし、受王 (紂王) により一族を殺され、たった七人の生き残りの子供達を率いて北の地まで逃れます。その後、中原に戻り商人の護衛をしたり、妻を娶るも先立たれたり、商王朝のお膝元で肉屋を表看板に反政府組織の頭となったり... あと凄いのは剣の手ほどきを受け、月光を斬ることが出来るようになったりとか。ちょっとびっくりな展開ながらも、小説として楽しく読むことができます。

ちなみに、「太公望の肉屋にはいつも腐った肉しか置いていない」という伝説もあり、本書説ではこれを反政府組織のための隠れ蓑として使っていたため、という解釈で物語にしています。なかなか面白いですね。また、中国において文字は周王朝樹立後に発明されたのだから、太公望が書物を読んで隠遁していたはずはない。などとちょっとした蘊蓄も含まれています。

文王に仕えてからの太公望は史実に沿った動きが多くなるので、自由度は下がりますが、それまでに張った伏線を活かして物語を十分に楽しませてくれます。周樹立後のストーリーがやや掛け足ですが、太公望で面白いのはやはり戦争前までなので、まあこれでも良いかな? と思ったり。。。

王家の風日

宮城谷さんの作品には「王家の風日」という作品があり、これは商王朝側から見た殷周革命を描いています。実は受王側には箕子という名臣がいて、「太公望」の前半でも登場します。その時、太公望はまだ子供なのですが、商王朝打倒における最大の障害は箕子であると見抜きます。その後も、太公望は常に箕子の動きを警戒し続けます。どんな策を練っても、箕子にはその真意が読まれるだろうと惧れるのですね。

そして太公望が箕子をおそれるのと同じ様に、箕子は太公望の力をおそれます。

「太公望」と「王家の風日」を読むと、殷周革命を対に見る面白さがあります。片方を読んだら、もう一方も是非。

王家の風日 (文春文庫)

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