トルーマン・カポーティ (Truman Capote) の中短編集「ティファニーで朝食を」を読みました。収録作品は「ティファニーで朝食を」「花盛りの家」「ダイアモンドのギター」「クリスマスの思い出」の 4 編。
私は龍口直太郎訳で読みましたが、現在同書は入手難の模様。代わりに村上春樹訳版が出ています。引用は龍口訳版を使っていますので、村上訳版とは違いがあることを先にお断りしておきます。
ティファニーで朝食を (Breakfast at Tiffany's)
オードリー・ヘップバーンの映画版が非常に有名です。映画の中でかかった「ムーン・リバー」も名曲でした。
しかし、原作は映画と随分違います。映画の方が、よりラブ・ストーリーに脚色されています。映画は映画の (特にヘップバーンの) 魅力が溢れていますが、原作にはカポーティの何とも言えない重さがあります。原作と映画版は違ったものとして考える方が良いでしょう。
その原作ですけれども、サリンジャーの「ナイン・ストーリーズ」やトルストイの「クロイツェル・ソナタ」の様な恋と不安に揺らぶられる作品です。
ホリーは掴みどころがなく、バカの様に騒いだりしていますが、とても頭が良いんだろうなぁと思います。頭が良すぎるので、将来に不安があることを見抜いているのでしょう。そんな彼女は束縛を嫌います。
その象徴的な台詞がこれ
あたしがお金持になり、有名になることを望まないというんじゃないの。むしろ、そうなることがあたしの大きな目的で、いつかはまわり道をしてでもそこまで達するようにつとめるつもり。ただ、たとえそうなっても、あたしの自我だけはあくまで捨てたくないのよ。ある晴れた朝、目をさまし、ティファニーで朝食を食べるようになっても、あたし自身というものは失いたくないのね。
これが、有名な「ティファニーで朝食を...」の台詞なのですね。束縛を嫌い、自由を愛するホリー。彼女は飼っている猫に「名前」を付けることは束縛することだと拒み、主人公には豪華な鳥籠を送りますが中に鳥を入れないでと頼みます。彼女の名刺に、住所は「traveling (旅行中)」とあります。それがホリーなのです。
彼女はギターを持って歌を歌います (ここは映画と同じ)。その歌詞はこうです:
Don't wanna sleep,
don't wanna die,
Just wanna go a-travelin'
through the pastures of the sky.(訳)
眠りたくもなし、
死にたくもない、
ただ旅して行きたいだけ、
大空の牧場を通って。
歌がホリーを Traveling にしたのか。ホリーが Traveling だからこの歌を好むのか。
映画とは違うホリーの自由さに強く心を打たれました。
ホリーの歌声
原作と映画版は違うところも多いですが、原作に忠実なところもあります。それがホリーの歌です。
彼女はギターがなかなか上手だったが、それに合せて歌うこともあった。それは男の子みたいな、しわがれた、かすれ声だった。彼女はコール・ポーターとかカート・ウェールなど映画のヒット・ソングはみんな知っていたが... (後略)
映画版でもオードリー・ヘップバーンはギターを弾きながら、歌を歌います。「ムーン・リバー」ですね。このヘップバーンのムーン・リバーは映画サントラには収録されていません。ですが、映画で歌うヘップバーンの声を聞くと、ああ、と思います。
ヘップバーンのムーン・リバーは美声ではなく、『男の子みたいな、しわがれた、かすれ声』で歌われているのです。ムーン・リバーは映画のために作曲された曲ですから、原作で歌っている曲とは当然違います。しかし、ヘップバーンのムーン・リバーは正に原作のホリーが歌っているのではないか? と思わされるのです。
その他三編の感想
「花盛りの家」はヒニクの利いた、でも「ティファニー〜」で疲めた心を安らげるのにピッタリな一品。
「ダイアモンドのギター」は起承転結が見事に構成された、オー・ヘンリーの様な珠玉の名品。
「クリスマスの思い出」は「ティファニー〜」に次いで胸を突かれる作品。特に前の三編と比べて作風をガラリと変えてきており、「クリスマス・キャロル」の様な心の温かさがたまりません。終わり方の余韻も素晴らしいものでした。
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