Kishin は、定金伸治氏が描く邪馬台国ものの歴史ファンタジーです。定金氏の最新作「四方世界の王」の新刊がいつまで経っても出ないので、しびれを切らせて別シリーズに手を出してしまいました。
舞台は紀元三世紀頃の邪馬台国。丁度、女王・卑弥呼が亡くなって一年が経った邪馬台国です。主人公・台与 (トヤ) は卑弥呼の霊力を得て邪馬台国の次期女王の座を狙います。
邪馬台国の位置は特定されていませんが、本書では九州説を採用。卑弥呼の後継者は、壱与 (いよ) とも台与 (とよ) とも書かれますが、本書では台与で統一。
台与は卑弥呼の息子(皇子)・忍穂の力を借りて、邪馬台国の掌握、九州の平定、近幾への進出を果たす... というのが大筋です。ヒロイン・台与は気が強くって計略家。一方、相手方の忍穂はちょっと頼りなさげ。二人は表向き協同戦線として結婚するけれども、その実、とっても両想い。なのに台与の方は、そんな忍穂に自分の心が正直打ち上げられない... 正に定金作品の定番パターン。
神代の力が「卑弥呼」の世代をもって終焉し、大和王朝に引き継がれる頃には「神の力」などなくなっている。というか、その神代の力をなくすために卑弥呼が色々と仕掛けを残している。ちょっと悲しい物語。これを和語で言うと、「あはれ」となるのかしらん。
ストーリーの流れは見事。台与と忍穂の心の交流がはっきりしないのが読んでいてもどかしかったです。でも、この二人の関係もまたストーリーの伏線になっていることを考慮すると、やはりそうなるしかなかったのかも。全体に「哀」な作品でした。そういう意味では、新作「四方世界の王」の方が洗練されているかな。
蛇足 1
邪馬台国ものというと、藤原カムイの作品で「雷火」というマンガがありました。ストーリーは全く違いますが、舞台が同じなので比較する意味でも楽しく読めると思います。
現在、絶版ということなので中古店で見つけるか、ネットカフェで読んでみてはいかがでしょう。
蛇足 2
定金氏の作品は、「Kishin」「四方世界の王」の様な歴史ファンタジーものは何らかの「使命感」のような重くるしさがあります。一方、定金氏唯一 (?) の SF 作品である「ユーフォリ・テクニカ」はとても軽い作品です。ファンタジーと SF の差なのか、歴史物と非歴史物の違いなのか? いずれにせよ、「ユーフォリ・テクニカ」は定金氏の作品の中では異色な作品と言えましょう。
言い換えると、定金氏の歴史ファンタジーものを期待して「ユーフォリ・テクニカ」を読むと肩すかしを喰らい、「ユーフォリ・テクニカ」を読んだ後に定金氏の別作品を読むと雰囲気の違いに驚くかもしれません。別の作家さんの作品と思って読む方が楽しめるかもです。
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