友人に、面白いマンガはないものか? と尋ねられました。そこで「童夢」というマンガを挙げると、知らないとの答えだったので、これはもったいないと貸し出すことにしました。
童夢の魅力
「童夢」は、あの「AKIRA」の大友克洋が描いたエスパー・マンガの傑作です。双葉社より刊行。たった一冊の単行本 (ソフトカバー) なのですが、これ以上ないという程にストーリーが練り込まれていて、プロットに隙がありません。もし、半分の長さの短編に書き直したり、手を加えて全二巻にまで引き伸ばしたりしたら、とたんに魅力をなくしてしまうことでしょう。それほどまでに、童夢は完璧に近い作品です。
場所は、とある集合団地。自殺・事故・変死、合わせて二十件を越える死亡事件が数年のうちに集中します。事件の関連性を探る警察は、何の手がかりも見出せません。捜査を担当していた警部は、犯人が童のような理由で事件を起こしているのではないかと推測し、ある夜、ついに事件の核心を見て... 犯人により命を奪われます。
ゆっくりと犯人の不気味さだけを描いていた前半とうってかわり、後半は物語が大きく動きます。子供たちが、犯人を排除しようと動き出すのです。警部が死亡して何日か後、団地に一人の少女が引越してきます。彼女は犯人と同じエスパーで、なわばり争いのような体で二人は対立します。二人の争う理由が、正義と悪のような二項対立的なものではなく、子供じみているところが怖いですね。
動の超能力戦を経て、最後は静の超能力戦へ。全超能力マンガの中で、ここはエスパー戦の白眉です。大人 (警察) はもはや、主人公達が超能力戦が行なわれていることにも気付けません。子供達だけがその争いに気付きますが、大人に干渉させることはありません。主婦が公園で井戸端会議をする日常の中、二人の争いは決着を見ます。
自分にとって邪魔なものを排除してきた「童」が、同じように「童」によって排除されてしまう。回りの童達は、その事実を善とも悪とも分けることはせず、彼らにとって当たり前の日常として認識する。「童」の持つ無垢が「童夢」全体を覆っていて、それが怖さと面白さを引き出しているのではないかと思います。
出た!
返信削除『童夢』ですね。
大友克洋が映画『幻魔大戦』に関わった前後の作品でしたよね。
僕は当時、中学生か高校生でした。
それまでの作品から『AKIRA』へ切り替わるターニングポイント的な作品に思えます。
僕が好きなのは、『さよなら日本』ですね。
『童夢』以前の大友作品には、どれも同じような「シニカルを帯びた日常」が漂っているのですが、『さよなら日本』はそこに軽妙な笑いが取り込まれた作品で、読後感が明るいものですね。
あとは、『気分はもう戦争』の第一作目でしょうか。
矢作俊彦と組んだ作品で、ぼく的には『AKIRA』よりも好きですね(『AKIRA』は真面目すぎかな)。
と、長々とコメントを書いたのですが、大友作品、どれ一つとして手許に残っていません。
人に貸したら帰ってこないんだ、本ってやつは(笑)。
いやー。この作品が世に出た頃、私はまだ小学校にも入っていませんでした。なので、当時のことはよく分かりません。実は、大友克洋の作品も、この童夢と AKIRA しか読んでないんですよ。
返信削除ちゃめさんお気に入りの「さよなら日本」は、よく名前を聞くので、そのうち読んでみたいです。マンガ喫茶に置いてあるかな〜? 「気分はもう戦争」も、あれば読んでみます。ただ、私の中で大友克洋は「AKIRA」のイメージが定着してしまっているので、楽しめるかは分かんないですね。
> 大友作品、どれ一つとして手許に残っていません。
ご愁傷様です。本や CD は気を付けて貸さないといけませんね。私も、友達が貸した CD をいつまで経っても返されないので、もう一度買い直したことがあります :(