2007-02-22

デ・サーバタのモツレク

レコード芸術という雑誌があります。クラシック音楽の CD を専門に扱っているマニア向け (?) の雑誌で、目玉は月々の特集と月評 (新譜と再発売の批評) となっています。しかし、その批評を鵜呑みにして CD を買うと、時々とんでもない代物を掴まされてしまうというのも、クラシック・ファンの間では有名な話です。逆を言えば、自分のお気に入りの CD がレコード芸術の月評で貶されていることも珍しくありません。

これは、クラシック好きの友人と、レコード芸術批判をしていた時のお話。

友人: レコ芸の月評には、何度騙されたことか!

ぼく: ですよね。私もこの前、好きなデ・サーバタのモツレクがレコ芸で貶されてて...

友人: え、待て待て待って。デ・サーバタのモツレク?

この時、私は、「デ・サーバタのモツレク」という名前を、レコ芸批判の具体的な例として軽く挙げただけのつもりだったのですね。ところが、友人は、この「デ・サーバタのモツレク」に見事、喰いついて来てくれました。嬉しかったですねぇ。というのも、「デ・サーバタのモツレク」。これに違和感を覚えるというのは、よほどのクラシック・マニアであることの証左だからです。私の周りには、クラシック音楽ファンが少なかったので、「ああ、今、自分はクラシック・ファンと話しているんだ!」という実感を持てた。それが嬉しかったんです。

少し解説しましょう。

ヴィクトール・デ・サーバタ (Victor de Sabata, 1892.4.10-1967.12.11) は、イタリアの指揮者です (作曲家でもありました)。デ・サーバタのレパートリーは、何といってもイタリアのオペラ物! ヴェルディ、プッチーニを得意としていました。彼の指揮者としての実力がどれ程高かったかは、かの大指揮者アルトゥーロ・トスカニーニの後任としてミラノ・スカラ座の音楽監督に就任したことからも分かろうというものです。しかし今日、デ・サーバタの名前はあまり知られていません。その理由は、彼が極度に録音嫌いであったことが挙げられます。彼の演奏は、とても録音が少ないのです。

さあ、予備知識は入りましたね。ここで友人の質問「待て。デ・サーバタのモツレク?」の意味するところを考えてみましょう。質問を見てみると、「デ・サーバタの」と言っていることから、彼が (比較的マイナーな指揮者である) デ・サーバタを知っていることは間違いありません。数少ない CD を持っているから、デ・サーバタを知っているのでしょう。従って、彼はデ・サーバタが録音嫌いであることも知っているようです。そして、「モツレク (モーツァルトのレクイエム)?」と聞いていることからして、友人はデ・サーバタがモーツァルトを得意にしていないことも知っているわけです。このマイナーな指揮者のレパートリーを熟知していなければ、こんな質問は出来るこものではありません!

しかし! さすがの友人も、デ・サーバタがモーツァルト没後 150 年記念コンサートでレクイエムを指揮し、その時のライブ録音が残っていることまでは知らなかったようです!! (もちろん、喜々として教えてあげましたとも!)

デ・サーバタのモツレクは、1941 年 12 月 4,5 日録音。ローマ RAI 弦楽団 & 合唱団を指揮。タッシナーリ、スティニャーニ、タリアヴィーニ、ターヨといったイタリアの名歌手が揃っており、レクイエムというよりまるでオペラ! この名唱を聞いて下さい。というか、デ・サーバタの指揮で美しい鎮魂歌を求めちゃいけませんね ;)

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