2011-02-06

コルトーが遺したピアノを Florence Delaage が弾く

フローランス・ドラージュ (Florence Delaage) という女性ピアニストがいます。コルトーの第子で、もし私に娘がいたら、それはフローランス・ドラージュのようであったであろう (Si j'avais eu une fille, c'eût été Florence Delaage)と言われたそうです。彼女はコルトーの死後、遺品としてコルトーが使っていたピアノを譲り受けました。そのコルトーのピアノを使って録音したアルバムが「Plays on the Piano of Alfred Cortot」です。

私はこの CD の存在を恢復期 第二期さんのブログで知りました (収録曲も恢復期 第二期さんのエントリーを参考にしました)。

Plays on the Piano of Alfred Cortot
Florence Delaage

B003KQKAKQ
Indesens 2010-10-12
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収録曲

  • CD1
    1. ショパン: 即興曲 全曲
    2. シューマン: 子供の情景 Op.15
    3. シューベルト: 即興曲 Op.90 D.899
    4. フォーレ: 即興曲 Op.84-5
    5. ショパン: ワルツ Op.42, Op.61-1(小犬のワルツ), 遺作(ホ短調)
  • CD2
    1. バッハ: 半音階的幻想曲とフーガ BWV.903
    2. リスト: 愛の夢 第 3 番
    3. ワーグナー: 黒鳥館に到着して、ベッティ・ショット夫人に捧げるアルバムの一葉
    4. ワーグナー (リスト編): 夕星の歌、糸紡ぎの合唱、イゾルデの愛と死
    5. フォーレ: 即興曲 第 3 番 Op.34
    6. ラヴェル: 亡き王女のためのパヴァーヌ、水の戯れ
    7. ドビュッシー: 映像第一集〜水の反映、前奏曲第二集〜花火

CD は 2 枚組で、一枚目がコルトーのピアノを、二枚目は普通のピアノを使って演奏されています。コルトーが使っていたピアノは 1896 年製の STEINWAY B (No.91814) です。2 枚目の CD で使われたピアノは 1986 年製の STEINWAY D (No.499495) です。

ドラージュの演奏は技巧派というより作品の味をじっくりと引き出すタイプのように思えます。例えばショパンの幻想即興曲。早いスピードで技巧を見せつけられる作品ですが、ドラージュはゆったりと弾きます。演奏時間は 5 分 37 秒。まるで、ピアノの響きを楽しむかのような演奏です。戦後、ポリーニやアシュケナージらがショパンの音楽に「完璧な技巧」という変革をもたらしましたが、ドラージュの演奏には彼らの前の時代の「古き佳きショパン」があります。

シューマンの子供の情景、シューベルトの即興曲作品 90 も名演の一つに数えられるでしょう。音の一つ一つが心にしみます。彼女の演奏を聞くと、むしろコルトーの演奏よりもラフマニノフの演奏を思い出します。テンポの一つ一つに意味があり、そして一曲全体を通してのクライマックスを意識しつつも強調しすぎない、あのラフマニノフの演奏です。ラフマニノフが編曲なしで遅めに弾いたら、こんな風になるんじゃないか? そう思うのは過大評価でしょうか。

なお、小犬のワルツの演奏時間は、CD ケースには 1 分 05 秒と書かれていますが、1 分 55 秒の誤りです。こちらも華やかで爽やかな演奏。小犬のワルツを演奏する人には、是非聞いて欲しい演奏です。

2 枚目の CD に入ると、現代のピアノだなぁ〜という音が耳に飛びこんできます。ただ曲目が私の知らないものが多く (バッハの半音階とかワーグナーの曲とか) 玄人好みなアルバムに仕上がっている気がします。

知っている曲で言えば、リストの愛の夢第三番は 1 枚目と同じくゆったりとした演奏で、無味乾燥になりがちなリストの曲が生き生きとしています。ラヴェルの亡き王女のためのパヴァーヌは遅いテンポが好みなら是非にとお勧めな一品。遅すぎず、ピアノの透明感を見事に引き出した演奏です。ドビュッシーは、好みを言えばギーゼキングの演奏の方が好き。ドラージュの演奏には低音が足りないように思います。その代わり高音の音の澄み具合は特筆もの。水の反映はハマる人が出ても不思議じゃない演奏です。

コルトーのピアノについて

上記過去エントリーにおいて、コルトーはプレイエルのピアノを弾いたと書きました。「ピアニストガイド」という本にそう書いてあったからです。

なので、当然コルトーが自宅で所有していた (そしてドラージュが相続した) ピアノもプレイエルだと思っていました。ところが、ケースを空けたらスタンウェイじゃないですか!! 驚きました。落ち込みました。う〜ん、コルトーもスタンウェイを (自宅で) 弾いていたんですねぇ。

前向きに考えると、1896 年当時のピアノはピアノとして既に完成されていて、古楽器系の鳴り方はしません。当然、今のスタンウェイと比べると音が違うわけですが、ピアノとして劣っているとは感じません。むしろ、大量製産時代前の職人技術が入っていて、今のものより良い点があるんじゃないかと思うほどです。欲を言えば 2 枚目の CD もコルトーのピアノで演奏して欲しかったです。

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