2011-08-15

介子推 (宮城谷 昌光) を読む

介子推 (講談社文庫)

介子推は春秋時代の名君、晋の文公 (名を重耳) に仕えた賤臣です。ここで言う「賤臣」は貴族出の臣下ではなく庶民出の臣下だと思って下さい。

介子推の史実について知ることは少ないですが、確かなことが 3 つあります。1 つ目は、文公は即位する前に 19 年に渡る放浪の旅をするのですが、その旅に少ない臣下と附き従い、重耳 (後の文公) を輔けたこと。2 つ目は、文公から報いられることがなかったため世捨て人となり、後に文公が介子推に報いようと探すも見つけられなかったこと。3 つ目は、現在、介子推は神として祭られているということです。

介子推がいつ頃から重耳に仕えるようになったのかは不明。少くとも放浪の旅の前であることは確かなようです。実際の活躍となると謎に包まれているのが、春秋時代の世の常ですが、宮城谷さんの作成はこの介子推を鮮かに描き出しています。

若い頃、棒の修練に明け暮れた介子推。棒の達人となり、重耳に仕える介子推。暗殺者・閹楚の刃を幾度と退ける介子推。斉への道のりで食料の入手に奔走した介子推。斉に在っては太子昭の暗殺者らを瞬く間に撃退する介子推。特に閹楚との (重耳を含む他の臣下が知らない) 水面下での攻防は手に汗握るものがあります。

その分、自分の功を何も言わない介子推が何とももどかしく、重耳の許を去る姿が何とも悲しいです。読後感を言えば、同じ宮城谷さんの作品「重耳」の方が好きです。

それと、宮城谷作品は何かとつけて男女の情愛を物語にくっつけます。昔のハリウッドで伝記映画を作る時に、必ずヒロインと結び付けていたのと同じ手法ですね。その手法が成功している作品も多いですが、「介子推」に関しては失敗だと思います。清廉な介子推のイメージにも合いませんし、物語として無理が多かろうと思うのです。無理にヒロインなど創出せず、「重耳」と同じように実直な若者として描いてくれたら、もっと面白かったろうにと思います。

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