2010-12-17

8 声のカノン BWV.1072 (J. S. バッハ)

J. S. バッハ作曲の 8 声のカノン (BWV.1072) が面白い。カノンとは大雑把に言って輪唱と理解してもらってかまいません。従って、「8 声のカノン」とは、一つのメロディーを 8 回輪唱することになります。

バッハの 8 声のカノン (BWV.1072) の面白いところは、曲が「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ファ・ミ・レ」というメロディーしか持っていないことです。音符の数が 8 つですから、ドの音をすぐ次の演奏者が追いかけ、そしてまた次の演奏者が追いかけ... ということが繰り返されます。8 人全員が演奏すると、もうメロディーが消えてしまって、フワーっとした何とも言えない空間が現れます。よくもまあ、こんな単純な発想を思いついたものだと感心しきりです。しかし、カノンが成功した時の何とも言えない音の空間 (あえてメロディーとは呼びません) は独特のものがあり、一種の陶酔感に浸れます。バッハの天才あっての曲と言えましょう。

流石にマイナーな曲で、CD の数が少ないです。私は 2 枚の CD を聞いたことがあります。

ヘンスラー版 バッハ大全集

ヘンスラー版バッハ大全集では、CD133 の 17 曲目に収録されています。ライナー・ノートによると、3 挺のヴァイオリンと 1 挺のヴィオラによるオーバー・ダビング (多重録音) で録音されているそうです。弦の響きが何とも言えない雰囲気を醸し出します。

Johann Sebastian Bach, Helmuth Rilling : Complete Bach Set 2010 - Special Edition (172 CDs & CDR) [Import from Germany]

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モノ=ポリ

この CD は「カノン」の曲ばかり集めた曲集です。1260 年頃の古いカノンから始まって、最新のカノン (リゲティとかベリオとかケージとか) を折り返し、最後は 1300 年生まれのマショーの「我が終わりは我が始まり」で終わるという構成です。なかなか凝った選曲・構成ですね。バッハのカノンは 9 曲目に収録されています。

「モノ=ポリ」の面白いところは、松平敬というバリトン歌手が多重録音で全てのカノンを歌っていることです。声というものは一人一人違っていますから、どんなに綺麗なハーモニーを作ってもピタリと一致することはありません。そのゆらぎがまた合唱曲の魅力でもあるわけですが、「カノン」に関しては全く同一人物の歌う「ゆらぎのなさ」が逆に曲に透明感を与えて、とても心地が良いのです。

実際、バッハの 8 声のカノンに関しても、「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ファ・ミ・レ」という音が合わさる様は弦楽版よりも純粋で至純です。

MONO=POLI (モノ=ポリ)
Various 松平敬
MONO=POLI (モノ=ポリ)
曲名リスト
1. [1]作者不詳(イギリス):夏のカノン(1260頃)
2. [2]作者不詳:アレ〈歌え〉ルヤ(13世紀)
3. [3]作者不詳(イギリス):ねんころりん、私は可愛らしい、上品な姿をみた(14-15世紀)
4. [4]作者不詳:ローマは喜び歓喜の声をあげよ(12-13世紀)
5. [5]ダンスタブル(ca.1390-1453):聖なるマリア
6. [6]-[8]ジェズアルド(ca.1560-1613):マドリガル曲集第6巻より(1611出版)/麗しき人よ、あなたが去ってしまうのなら/ああ、なんとむなしく、私はため息をつくのか/私は、ただ呼吸する
7. [9]J・S・バッハ(1685-1750):8声のカノン BWV 1072(1754出版)
8. [10]モーツァルト(1756-1791):心より愛します KV 348(382g)(1782)
9. [11]グリーグ(1843-1907):めでたし、海の星(1893)
10. [12]ストラヴィンスキー(1882-1971):アヴェ・マリア(1934/49)
11. [13]シェーンベルク(1874-1951):《3つの風刺》 より 分かれ道にて Op. 28-1(1925)
12. [14]ケージ(1912-1992):《居間の音楽》より 昔話(1940)
13. [15]リゲティ(1923-2006):ルクス・エテルナ(1966)
14. [16]松平 敬(1971- ):モノ=ポリ(2009)
15. [17]-[18]ブライアーズ(1943- ):マドリガル集第2巻より(2002)/私は、この地上に天使のような姿を見た/おお、あてどない歩みよ、おお、うつろいやすく、しかし確固とした思いよ
16. [19]ベリオ(1925-2003):もし私が魚なら(2002)
17. [20]ケージ:声のためのソロ2[4ヴァージョンの同時演奏](1960)
18. [21]シェーンベルク:千年を三度 Op. 50A(1949)
19. [22]-[24]ドビュッシー(1862-1918):シャルル・ドルレアンの3つの歌(1898/1908)/I. 神よ!なんたる眼の保養/II. 太鼓の音が鳴りひびき/III. 冬よ、御身が憎らしい
20. [25]ブラームス(1833-1897):おお、なんとなだらかに(1970頃)
21. [26]パーセル(1659-1695):主よ、わが祈りをききたまえ(1680頃)
22. [27]パレストリーナ(ca.1525-1594):主よ、今こそあなたは
23. [28]ジョスカン・デ・プレ(ca.1440-1521):ミサ《ダ・パーチェム》より アニュス・デイ
24. [29]作者不詳(スペイン):3人のムーア娘(15-16世紀)
25. [30]作者不詳(スペイン):手に手をとって(15-16世紀)
26. [31]マショー(ca.1300-1377):我が終わりは我が始まり

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ちなみに、この CD のレビューがオーディオ・ベーシックの連載「高音質ディスク聴きまくり」にちょこっとだけ載っています。興味を持たれたら、立ち読みしてみてはいかがでしょうか。

AUDIO BASIC (オーディオベーシック) 2011年 01月号 [雑誌]
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