2007-01-21

ピアノとともに (Walter Gieseking)

「一番好きなピアニストは?」と聞かれれば、私は、ヴァルター・ギーゼキング (Walter Gieseking, 1895-1956) の名前を挙げます。そのギーゼキングの自伝 (+ エッセイ集) が発売されていたので、買って読みました。

書名は「ピアノとともに」。出版社は白水社。原著のコピーライト表示は 1963 年で、国内の初版出版が 1968 年 4 月 (私が買ったのは新装復刊版で 2006 年 12 月 25 日発行とあります)。付録を合わせて 264 ページで、2,800 円。

原書の題名は「So wurde ich Pianist (わたしはこうしてピアニストになった)」で、(1) 自伝 (2) エッセイ (3) 作品・レコード・テープ目録の三部構成に人名・事項索引が付いていました。しかし、訳者である杉浦博氏の独断で、「自伝」は「わたしはこうしてピアニストになった」に、「エッセイ」は「ピアノをひく人たちのために」に改題され、付録の人名・事項索引は削られてしまいました。こういう改変は訳者なりの好意なのでしょうが、余計なおせっかいに思えて仕方がありません。

さて、アーティストの自伝というと、ゴーストライターがいたり偽書であったりする場合があるわけですが、本書は全てギーゼキングの筆によるものと考えてよさそうです。というのも、え〜と、プロの作家が書いたにしては構成が悪いというか、全然物語調になっていないというか、一言で言うと、面白くない... ^^;

この本をまとめたのはギーゼキングの娘であるユタ・ホイマッシーで、彼女は回想記の終わりに次のように書いています。

ここで父の回想記はとぎれている。父がこれを書きはじめたのは、自動車事故のため、一九五一年の冬、スイスでしばらく休養生活を余儀なくされたときのことである。しかし、待ちに待った演奏活動再開の見通しが立つようになるとすぐ、父にはこの自伝を書きつづける時間の余裕がなくなった。ただそののちもおりおりは執筆をつづけており、いつかは完結できるものと信じていた。

このことから、自伝には (ギーゼキング本人の) 推敲がほとんど加わっておらず、(ユタ・ホイマッシーは) 書きかけだった原稿をそのまま出版した、と私は推測しています。

ただ、ギーゼキング・ファンの私としては、ギーゼキングが過ごした幼年時代、第一次大戦での従軍時代、そして第二次大戦後のアメリカで受けたボイコット事件について、ギーゼキングの視点を知ることが出来て、それは面白かったです。逆を言えば、ギーゼキングのファンでないと、自伝はちっとも面白くないかもしれません :p

さて、本書の帯には「ピアニスト必読の書」なんて書かれています。自伝を読んだ私は、これは誇大広告だなぁと思いました。しかし、本書の面白さは「エッセイ」にこそあったのです。特に「現代におけるタッチの問題」と「ペダルについて」の二編のエッセイは、ギーゼキングが自身の演奏技術の解説です。同じ内容が、ギーゼキングの師との共著「現代ピアノ演奏法」にあるそうですが、私は未読なのでとても楽しく読めました。

この他にも、バッハ、モーツァルト、ドビュッシー、ラヴェルの演奏について、一つずつエッセイが載っています。こちらも楽しく読めました。

書き足りない所もありますが、今日はここまで。「ピアノとともに」の内容については、ぼちぼちとエントリーにしていく予定です。

ピアノとともに
ヴァルター ギーゼキング Walter Gieseking 杉浦 博
4560026645

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