2009-11-10

スター・トレックの DVD を見ました

2009 年、一番面白いと思った映画は「スター・トレック」でした。この映画が、日本で興業的に成功の部類に入っていないと聞いて、ショックです。

ブログには書いていませんが、三回も劇場で見てしまいました。

もちろん DVD は予約。11/6 には届いていましたが、土曜日は忙しくて見る時間が取れませんでした。日曜日にようやく時間を作って見ました。19 インチのディスプレーで PC から再生するスター・トレックは、映画館のスター・トレックより小さくて音響も迫力のないものでしたが、そこにはやはり「スター・トレック」がありました。

とても脚本が良く出来ていると思います。USSR エンタープライズの主要キャラクターが、新造鑑の主要ポストにつく流れが上手いです。特に上手いと思ったのが、敵のドリルを破壊するための人選が、白兵戦 (フェンシング) の出来るスールーと主人公カークである点。ここでキャプテン・パイクはスポックをキャプテン代理に、カークをサブリーダーに指命します。直後の展開で、スールーとカークは共闘して友情を深めますが、それはこの映画の一面でしかありません。映画後半、スポックがキャプテン代理を降ります。スポックはこの時点でブリッジを去っている上、カークがサブリーダーだと指命されたことを言える精神状態ではありません。ブリッジにはキャプテン不在、サブリーダー不在の状況が発生しました。この時、スールーが証言するんですね「カークがサブリーダーだ」と。これが、一般クルーなんかが言ったんでは証言性が薄いでしょう。しかし、スールーがキャプテン・パイクから聞いた言葉だと証言すると重みは違います。そして、カーク船長が誕生するわけです。

スタートレックは、このように、一つの側面を見せながらも後に繋がる、二重の含みを持たせたシーンが多い。それでいてテンポが早く、ストーリーが単純。とても楽しめる映画だと思うのですがねぇ。

スター・トレック スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD] スター・トレック スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]

2009-11-09

時をかける少女とゴールドベルク変奏曲

後ればせながら映画「サマーウォーズ」にはまってます。昨日、友達と二回目を見に行ってしまったのは秘密です。「サマーウォーズ」を観に行きたい、と思ったのは監督・細井守氏の前作「時をかける少女」を面白いと感じたからです。

「時かけ (時をかける少女)」を DVD で見て、何故、映画館で見なかったのか後悔したものです。だから、細井氏の次回作が出たら映画館で見るぞ、と決めていました (体調を崩して、こんな時期に観る羽目になってしまいましたが)。

閑話休題

「時かけ」でかかる音楽の話です。映画を見た時、私はあれをポップな音楽だと思っていました。

添えられる音楽もポップな感じでグッド。ひたすら元気で前向きな主人公にマッチしています。

life@aka: 時をかける少女 より引用

ところがそうではなかったのですね。この曲はポップスどころか、クラシック音楽。それもバッハの作品でした。曲名をゴールドベルク変奏曲。バッハの作品の中でも有名曲の一つです。

気がついたのは友達のお陰でした。友達を部屋に呼んで、色々とクラシック音楽を聞いていたのです。その中でリクエストがあったのが、バッハのゴールドベルク変奏曲。

さて、何をかけようかな? 手元にあるゴールドベルクの CD はグールド、シフ、カニーノ、ヴァルヒャ、レオンハルト。チェンバロでいこうか、ピアノでいこうか? まあ、オーソドックスにピアノにしましょう。するとシフかグールドだよね。ここは定盤のグールドかな? モノラルとステレオ、どっちにしよう。音の新しいステレオ (1981 年盤) かな? そんなことを考えて、CD を選んだわけです。

バッハ:ゴールドベルク変奏曲(1981年録音)
バッハ:ゴールドベルク変奏曲(1981年録音)

聞いてみてびっくり。「時かけ」のあのメロディーじゃない!

言いわけしますが、ゴールドベルク変奏曲って演奏者が変わると、曲の感じがかなり変わるんです。同じグールドでも、モノラル盤とステレオ盤は大違い。私が一番聞いていたのはヴァルヒャの演奏で、これはチェンバロで弾かれているから全然雰囲気が違うんですね。

いや、まあ、ヴァルヒャの演奏を聞いて、あまりゴールドベルクって面白くないのね... と興味が薄かったという方が真相です。曲も全然覚えてなかったし。

で、グールドのゴールドベルクの演奏は、「時かけ」の印象そっくりだったのです。そして私は今まで興味を持っていなかったゴールドベルク変奏曲を好きになったのでした。

蛇足

ネットで調べてみたところ、映画の中でピアノを弾いていたのは美野春樹という方だそうです。

彼の全曲盤はなくて、サントラでしか演奏を聞けないみたいです。

時をかける少女 オリジナル・サウンドトラック
吉田潔
時をかける少女 オリジナル・サウンドトラック
曲名リスト
1. 夏空~オープニングテーマ~
2. スケッチ
3. アリア(ゴールドベルグ変奏曲より)
4. からくり時計~タイムリープ
5. 少女の不安
6. スケッチ(ロング・バージョン)
7. Daylife
8. 第一変奏曲(ゴールドベルグ変奏曲より)
9. 未来の記憶
10. 静寂
11. 変わらないもの(ストリングス・バージョン)
12. 夏空~エンディング・テーマ~
13. タイムリープ(ロング・バーション)
14. 夏空(ロング・バージョン)
15. ガーネット(予告編ショート・バージョン)

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2009-11-08

Beatles 全アルバム (リマスター盤) を収録した USB が発売される

2009-11-04、Engadget Japan はビートルズの全アルバムが USB メモリー版でも発売されるとのエントリーを出しました。この時、「発売は英国で 12 月 7 日、北米で 12 月 8 日。国内については現在のところ公式ビートルズストアに記載なし」でありました。

その国内発売未定の USB メモリー版ですが、(少くとも) HMV Japan が取り扱いを行なうようです。

HMV ONLINE

以下、概要をば。

  • 輸入国内仕様の限定生産品
  • 収録するのは、デジタル・リマスターされたビートルズのステレオ版全アルバム (14 枚: 含むパスト・マスターズ)
  • デジタル・リマスター版の初回限定版に収録されたボーナス映像も含む
  • ブックレット無し

以上。HMV のサイトより。Engadget Japan によると、16 GB のメモリーに、320 Kbps の MP3 と、44.1kHz 24bit の FLAC が同時収録されるそうです。

発売日は 2009 年 12 月 16 日。気になる価格は 38,740 円。ビートルズ・ファンの方はいかがですか?

ref

2009-11-07

シューマンのピアノ協奏曲 (フルトヴェングラー指揮 / ギーゼキング)

訂正: 本エントリーにおいて、「1944 年にフルトヴェングラーとギーゼキングがシューマンのピアノ協奏曲において協演したと言われていた」ことを批判していますが、これは私の誤りで、フルトヴェングラーが指揮したと間違われたのは 1944 年の「グリーグのピアノ協奏曲」でした。匿名さん、コメントありがとうございます。

先日のエントリーにおいて、疑問を呈したフルトヴェングラーが指揮するというシューマンのピアノ協奏曲。これが Amazon から手に入ったので聞いてみました。

シューマン:ピアノ協奏曲/チェロ協奏曲(2種類)
フルトヴェングラー(ウィルヘルム)|
シューマン:ピアノ協奏曲/チェロ協奏曲(2種類)
曲名リスト
1. シューマン:ピアノ協奏曲 第1楽章
2. シューマン:ピアノ協奏曲 第2楽章
3. シューマン:ピアノ協奏曲 第3楽章
4. シューマン:チェロ協奏曲 第1楽章
5. シューマン:チェロ協奏曲 第2楽章
6. シューマン:チェロ協奏曲 第3楽章
7. シューマン:チェロ協奏曲 第2楽章(コーダ~)-第3楽章

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まず、最大の疑問はこちら。

ギーゼキングとフルトヴェングラーのシューマンのピアノ協奏曲には、1944 年録音というものがあるのですね。これは、Melodiya レーベルで出ていたもので、初出時には話題になったと聞いています。ところが、調べてみると、どうやら指揮者が違うらしい。1998 年、これがフルトヴェングラーの指揮ではなく Robert Heger (1886-1978) の演奏であることが分かりました。

life@aka: ピアニストガイド (吉澤ヴィルヘルム) が嫌いな理由 より引用

この演奏が、1944 年に録音されたものと同じかどうか。1944 年録音のものを、間違えて 1942 年録音って書いて売っているんじゃないの? という疑問。

演奏時間の違い

まずは演奏時間を比べてみました。

楽章1942 (Furtwängler)1944 (Heger)
I14'5514'28
II05'4905'06
III09'3709'59

時間を比べると、明らかに別ものです。

演奏の違い

オケに耳を傾けてみましょう。

Heger の指揮は、まるでフルトヴェングラーが運命を振る時のようでした。ベートーヴェンが乗り移ったようなシューマンのピアノ協奏曲。それは、フルトヴェングラーのベートーヴェンが好きな人にはたまらない演奏であったでしょう。しかし、純粋に「シューマンのピアノ協奏曲」を考えた時、「違う」とも思ってしまいます。

一方、本家フルトヴェングラーの指揮は違います。ピアノとの「協奏」がしっかりと成されています。ピアノを立てる所は立て、オケが鳴る所では次への流れを意識した演奏を行なっています。録音はライヴ。ライヴのフルトヴェングラーというだけあって、盛り上がるところはスーっと盛り上がります。その熱気に負けないギーゼキング。うむ。これは楽しい演奏です。

第三楽章に入って、一番の盛り上がり所でギーゼキングが少しトチってしまっているのが瑕でしょうかねぇ。ライブのことなので、仕方ありません。

ところで、前エントリーで私が推したギーゼキングとカラヤンの協演盤。こちらを Amazon で探してみましたが、どうやら現在廃盤のようです。そういうわけで、今、ギーゼキングの弾く「シューマンのピアノ協奏曲」のファースト・チョイスはこのフルトヴェングラーとの協演盤なのかもしれません。悪くない演奏です。むしろ迫熱した良い演奏です。しかし、ライブの一発録り。1942 年の古い録音。これを代表盤にしてしまうのは、少し気がひけてしまいます。個人的には、やはり、カラヤンとの協演盤の復活を願いたい。

2009-11-06

ナイーヴ 完全版 (二宮ひかる)

先日、うそつきパラドクス (きづきあきら + サトウナンキ) のエントリーを書いたわけですが、このレビューを書くにあたって一通り「うそつきパラドクス」をググっておりました。それで (ほとんど) トップに出てきたのが、フランさんのレビューでした。

レビューが上手いなぁ、と思ったのは内緒の話。問題はそのエントリーに投稿されたコメントです。

同じ方向性でアニマル連載なら、まずは完結している「ナイーヴ(二宮ひかる先生)」を読んでみて、心に痛みを感じない方ならお奨めできます。個人的感想では絶賛連載中だからかも知れませんが、「ナイーヴ」より更に心が痛みます。そして主人公に感情移入しすぎると、心が壊れます……。私は「ナイーヴ」ですら心が挫けたので、完成版が出てくれたときは買って改めて読んで、本気でほっとしましたよ(←余りに心が痛みすぎて途中で読み続けることを放棄したものの、二宮ひかる先生の作品は好きなものが多いので気になり続けて、結局は完成版として完結してから改めて買い直した人間です。「この地獄が一体、いつまで続くの?」と思ってしまう方には絶対にお奨めできません!)。

本気と嘘が紙一重の恋「うそつきパラドクス」1巻 | フラン☆Skin より引用

「ナイーヴ」! これもいいお話しでした。確か全巻買ったはず。このコメントを読んで読み直したくなりました。でも見つからない。

そういえば、引越の時にブックオフに売っちゃったかも。ああ、バカバカ。ぼくのバカ。そんなこんなでブックオフ巡りです。

でも待って下さい。上のコメント、「完全版」とか書いてませんか? あるんですか? 本当ですか? いつ出たんですか? 嘘でしょう?

Amazon で探しました。ありました。

ナイーヴ 1 完全版 (1) (ジェッツコミックス) ナイーヴ 2 完全版 (2) (ジェッツコミックス)

完全版なだけに特典ありました。

  • 一巻に「口にするのは」〜書きおろし
  • 二巻に「口には出せない」〜ヤングアニマル増刊嵐 (2001 年 vol.1)
  • 二巻に「and so on...」〜二宮ひかるオールコレクション「楽園」 (2002 年 5 月)

一巻の特典短編は、本編中の出来事。二巻の特典は本編終了後 (2 年後くらい?) を描いた短編です。

う〜ん。ナイーヴ・ファンは、この短編三つのためだけに完全版を買ってもいいかもしれませんね。

蛇足

「ナイーヴ」を初めて聞くという人に簡単な解説。

一言で言えば、社内恋愛もの。「色っぽいって言われるだろ」「変わった人ですね」「へェそう? 今まで誰にも誰われたことない!?」「あなたで たぶん 19 人目…」「もしかしてその 19 人全員はヤっちゃった?」(中略)「田崎さんってわるいひとなんですか?」「だったらかっこいいけど、藤沢さん 19 人全員と——って言っただろ? 19 人目ってオレじゃん」

こんなやり取りで始まった二人の付き合い。最初は二人とも、本気でなかったかもしれない。でも気が付けば、お互いが相手を求める存在になって、もう言葉にして「好き」と言うのが怖い関係になってしまった。そんなナイーヴな二人の話。でございます。

2009-11-05

ピアニストガイド (吉澤ヴィルヘルム) が嫌いな理由

ピアニストガイドという本があります。クラシックのピアニストだけを紹介し続けて、350 ページという本です。著者は吉澤ヴィルヘルム、1963 年生まれ。出版社は青弓社で、発行は 2006 年 2 月。

この本には良いところもあるのですが、その話は後日するとして、今日はぼくがこの本を嫌いな理由を書きます。

ピアニストガイド

何故この本が嫌いか?

非常に個人的な理由です。私の大好きなピアニスト「ヴァルター・ギーゼキング (Walter Gieseking)」の頁 (p.204) がひどい解説なのです。ただそれだけです。

引用しながら、一つずつ説明していきましょう。

略歴

まずはピアニストの略歴です。

55 年および 56 年の 2 度にわたる交通事故によって死去。

まず、日本語が分かりません。「2 度にわたる交通事故」で死ぬってどういうことですか? 55 年の大晦日に交通事故に遇って、そのまま日をまたいで元旦に交通事故に遇ったとか、そんなシチュエーションですか? 私の読解力では、この文言は全く理解の外です。56 年の 2 度目の交通事故で死んだ、と言いたかったんでしょうか?

あとギーゼキングの一回目の交通事故は 1951 年です。

まあそれらを修正したとしても、ダメです。全くダメです。

何故なら、ギーゼキングの死因は交通事故ではないからです。彼は、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集の録音中 (第 15 番「田園」を録音中)、スタジオで腹痛を訴えロンドンの病院に搬送されます。急性膵臓炎でした。手術は成功しますが、予後の経過が悪く、1956 年 10 月 26 日に他界します。そのため、ギーゼキングのベートーヴェン・ピアノソナタ全集は未完に終わり、第 16 番に到っては「演奏者の死去のため第 4 楽章はなし」となっています。

こんなことは、Wikipedia を開けば書いてある初歩的なことです。大好きなピアニストの死因を勝手に書き替えられた挙句、分けの分からない交通事故で二度も殺されては心象も悪くなるというものです!

せっかくなので、ギーゼキングの弟子ウェルナー・ハース (Werner Haas; 1931-1976) の解説 (p.215) も見てみましょう。

この天才はわずか 40 代の若さで、師ギーゼキングと同じく交通事故で世を去った。

よっぽど、吉澤氏はギーゼキングを交通事故で殺したいようです。(ハースは交通事故で死去しました)

本文より「記憶術」?

本文にも分からない記述があります。

楽譜を読むだけで、それを図形のイメージで暗記し、暗譜で演奏することができたという。

「図形のイメージで暗記」って? それは最近の記憶術ですか?

ギーゼキングの暗譜力がすさまじかったことは有名ですが、私が知る限り、現代の暗記術とは全く別の方法で暗譜していたと理解しています。「記憶力が凄い」イコール「記憶術」といった変な先入観は止めて欲しいものです。

本文より「ペダルの使用」について

音をイメージしながらペダルを使わずに微妙なニュアンスや音色をすべてタッチで弾き分けたとされる。

ペダルを使わないピアニスト? そんなピアニストいるもんですか!

ギーゼキングの著作「ピアノとともに」を読めば分かりますが、ギーゼキングがペダルを不要と考えていたのはペダルが存在しなかった時代の作品 (主にバッハからモーツァルト) です。

「ピアノとともに」の「コンサート・ピアノによるバッハ解釈」というエッセイから引用します。

バッハのピアノ曲を本来の意味どおりにひこうと思えば、いかなるフォルティッシモも避けなければならないのである。

同様にバッハの場合、ペダル効果というものもぜんぜん存在しない。右ペダルには、演奏中はまったく触れないのが最もよい! どんなに慎重にペダルを使っても、不明瞭さが生まれ、響きの形を変えたり、歪めたりしてしまう。和音は足でではなく、指で持続させるべきである。

そんなバッハにおいても

ひとつひとつの音を美しくするため、もしくはアルペッジョのパッセージの場合に、耳に聞こえないようにペダルを用いることは --- 例外として --- 許されよう。

とペダルの利用を示唆しています。

更に同書の「モーツァルトのピアノ音楽」も引用します。

技術面についてもうひとつ言えば、わたしは右ペダルをほとんど一度も踏まなかった。それはひとえに、モーツァルトがその音楽を作曲していたころには、この装置はまだ考案されていなかった、ないしはようやく幾台かのピアノに取りつけられたばかりだった、という理由からである。つまりわたしは、モーツァルトはその音楽を、この《新式の》ペダルの効果を考慮することなく創作した、と確信しているからである。

そしてギーゼキングはペダルの利用を拒んでいたわけではありません。むしろ大切に思っています。同書にも「ペダルについて」という 12 ページのエッセイが載っているほどです。そのエッセイの冒頭はこう始まっています。

正しいペダル使いは、じつに重要である。

そしてこうあります:

わたしはペダルの使用はようやくベートーヴェンの時代からだとさえ、あえて言いたい。それ以前に書かれた音楽はすべて、ペダルなしで演奏しうるものである。(中略) 初期古典派の音楽は、それを原形にのっとって演奏する場合、この《ペダルのない》性格を守らねばならないと考えるものである。

ベートーヴェン、シューベルト、ロマン派の作曲家たち、といったおよそベートーヴェン以後に書かれた音楽は、すべてペダルの利用に耐え、またそれを要求する。

ギーゼキングはペダルを使わないピアニストではありませんでした。むしろ、半ペダルの名手だったと言われているほどです。

ピアノとともに

本文より「ピアノ」

ギーゼキングが録音に使ったピアノは何でしょう? ピアニストガイドによると、グロトリアン・ピアノだと言います。

ギーゼキングは 50 年代に EMI でフランス音楽やモーツァルト、ベートーヴェンなどのレパートリーを録音していて、グロトリアンの音色が味わえる

ここに、対極の記述があります。「ギーゼキングの芸術」に書かれた三浦淳史氏のライナー・ノートです。

ギーゼキングは必要以上に楽器にうるさい大家ではなかった。彼は日比谷公会堂備え付けの、たしかニューヨーク・スタンウェイを弾き、それまでいかなるピアニストも出したことのないような美しい透明な音を引き出した。アメリカでは、彼はボールドウィン・ピアノの専属アーティストだったので、他の銘柄は一切使わなかった。ボールドウィン社は 1962 年のシンシナティに創業したアメリカのピアノ・メーカーで、ギーゼキングのお陰でボールドウィンの株が上がったといわれる。ただし、彼が EMI の録音で使ったのは、すべてハンブルク・スタインウェイである。

さあ、ここで EMI 録音に使われたピアノが 2 つ出てきました。吉澤氏の言うグロトリアン(・スタインヴェーグ) と三浦氏のハンブルク・スタインウェイです。

ピアノ系のウェブページを見ると、ギーゼキングがグロトリアンが愛用していたのは間違いなさそうです。

グロトリアンはシューマンの妻であったクララ・シューマンや、ワルター・ギーゼキング等、 幾多の名ピアニストが生涯コンサートで使用し、また愛用していました。

Grotrian - Steinweg (グロトリアン・シュタインヴェーグ) より引用

しかし、EMI 正規録音に使っていたのかどうかというと、どうなんでしょう。私には答えが出せません。

ギーゼキングの芸術
ギーゼキング(ワルター)
B000064TAD

推薦盤について

これは趣味の範疇なので、どうこういうのは間違っているのかもしれません。

しかしマニアック過ぎるのです。

そもそも、

実は、このピアニストの本領は 30 年代に録音された猛烈に速いテンポによる情熱的なベートーヴェンや、研ぎ澄まされたドビュッシー、切れ味の鋭いシューマン、戦後のバッハの超特急の「平均律クラヴィーア曲集」全曲のライヴなどにある。

と言っている時点で、私とは趣味が合わないのかもしれません。私は、ギーゼキングを聞くなら 50 年代の LP レコーディング。モーツァルト、ベートーヴェン、ドビュッシー、ラヴェル。そして美しいメンデルスゾーンの無言歌集やシューベルトの即興曲と思っているからです。そして、30 年代の録音は、それらの演奏を聞いた上で更にギーゼキングが知りたくなった人にお勧めしたい。

というわけで、つっこみです。

バッハ:平均律クラヴィーア曲集
バッハ:平均律クラヴィーア曲集

超特急なんです。普通の平均律クラヴィーア曲集を聞いたことのある人なら、拒否反応を示したくなるような速さです。ある意味、グールドに近い程に異端、そしてリヒテルほどにロマンティック。ペダルを使わずフォルテッシモのない演奏をすれば、チェンバロ演奏のようにテンポが速くなるわけで、その中にギーゼキングの造形美が隠されている名演です。この録音はほとんどライヴに近い一発録りらしいのでミス・タッチもありますが、一度ハマると抜けられません。しかし、これをファースト・チョイスに持って来るのは間違っていると思います。

20世紀の偉大なるピアニストたち~ワルター・ギーゼキング(2)
ギーゼキング(ワルター)
20世紀の偉大なるピアニストたち~ワルター・ギーゼキング(2)
曲名リスト
1. 前奏曲集第1巻(全曲)(ドビュッシー)
2. 同第2巻(同)
3. 版画(同)

1. ピアノ・ソナタ第14番ハ短調K.457(モーツァルト)
2. ピアノ・ソナタ第21番ハ長調op.53「ワルトシュタイン」(ベートーヴェン)
3. 同第23番ヘ短調op.57「熱情」(同)
4. 夜のガスパール(ラヴェル)

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はい。「熱情」がすさまじいです。第一楽章から、第二楽章はそれなりです。

第三楽章。速いんですね。しょっぱなから。そして、どんどんテンションが上がっていくんです。これぞ「熱情」そのパッションのとらえ方がすさまじい。シフラにベートーヴェンが乗りうつったかのような演奏です。コーダは、無理でしょうってテンポをテクニックでねじふせる快演。流石、ホロヴィッツと対等と言われたテクニシャン。

でも、私は 50 年代のより造形の美しい演奏を好みます。全体のまとまりもあって、初めてギーゼキングを聞く人には、新しい録音を聞いて欲しい。30 年代の爆演はその次でいいかな? と思います。

シューマン:ピアノ協奏曲/チェロ協奏曲(2種類)
フルトヴェングラー(ウィルヘルム)|
シューマン:ピアノ協奏曲/チェロ協奏曲(2種類)
曲名リスト
1. シューマン:ピアノ協奏曲 第1楽章
2. シューマン:ピアノ協奏曲 第2楽章
3. シューマン:ピアノ協奏曲 第3楽章
4. シューマン:チェロ協奏曲 第1楽章
5. シューマン:チェロ協奏曲 第2楽章
6. シューマン:チェロ協奏曲 第3楽章
7. シューマン:チェロ協奏曲 第2楽章(コーダ~)-第3楽章

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シューマンのピアノ協奏曲には、カラヤンとの名演があるのです。それをさし置いて、何でフルトヴェングラーなんですか? マニアック過ぎでしょう?

しかも、ギーゼキングとフルトヴェングラーのシューマングリーグのピアノ協奏曲には、1944 年録音というものがあるのですね。これは、Melodiya レーベルで出ていたもので、初出時には話題になったと聞いています。ところが、調べてみると、どうやら指揮者が違うらしい。1998 年、これがフルトヴェングラーの指揮ではなく Robert Heger (1886-1978) の演奏であることが分かりました。

訂正: 本エントリーにおいて、「1944 年にフルトヴェングラーとギーゼキングがシューマンのピアノ協奏曲において協演したと言われていた」ことを批判していますが、これは私の誤りで、フルトヴェングラーが指揮したと間違われたのは 1944 年の「グリーグのピアノ協奏曲」でした。匿名さん、コメントありがとうございます。

今回、紹介しているディスクも、てっきりそれだと思っていました。でも見てみると、1942 年録音。あれ? 本当にフルトヴェングラーとの録音もあったのかな? ってマニアックすぎでしょう (涙)。今、Amazon の注文をかけて取り寄せているところです。これが 1944 年録音とされているものと違えば、嬉しいのですが。

とにかく! 選曲がマニアックすぎます!!!

2009-11-04

ゆらこめ <上・下> (由良 博英)

ゆらむぼんさんの訃報を、yurikamome さんのブログで知りました。ゆらむぼんさんは、クラシック CD の紹介をなさっていた方です。本名、由良博英。

この曲を探していたら、ネットによるコミュニケーションの走りだったNifty-Serve時代、レコード会社から袖の下を渡された評論家ではない、普通の愛好家の普通の感性の歯に衣着せぬ論評がそれこそ”祭りだワッショイ”状態で盛り上がっていたFCLAで私には随分おなじみだったゆらむぼさんが一昨年に亡くなっていたことを知った。

yurikamomeの妄想的音楽鑑賞とお天気写真 : 知っていれば話のネタになる曲 - A より引用

私は、ゆらむぼんさんご自身とお会いしたことはありません。ゆらむぼんさんが活躍なさっていたという、Nifty-Serve 時代も知りません。インターネットの時代になって、ゆらむぼんさんがホームページを開設し、その中で CD 評を書いているのと時折読んで楽しんでいた者です。

ゆらむぼんさんのサイトで特に面白かったのが、指揮者の形態模写をやっているビデオでした。流す音楽はグリンカの「ルスランとリュドミラ」。これを回りの人のかけ声 (というか「指揮者」の指定) に合わせて、その指揮者そっくりに指揮をするのです。さんざ、大爆笑をしましたが、実演を見ることはもうないのだな... と淋しくなってしまいます。

ゆらこめ

そんなゆらむぼんさんの書き物を、お兄さんが Nifty-Serve 時代からホームページ時代、そして mixi 時代のものまで集めて、上下巻にまとめたのが「ゆらこめ」という本です。

ひさしぶりに、ゆらむぼんさんの CD 評を読んでみると、意外と軽く評を書かれているのだと驚きました。といっても、CD のポイントを掴んでいるから、評自体が短めになっているのですけど。でも、それ以外にも「『のだめ』に流れていたので、聴いている」(上巻・p.162)とか「ジャケットが粋」(下巻・p219) とか案外どうでもいいことも書いてあったりするんですね。肩の力を抜いた CD 評。私もこんな風に肩から力を抜けばいいのかな? そう思いながら残りを読む毎日です。

ゆらこめ〈上〉―ゆらむぼのクラシック音楽CD評論集 ゆらこめ〈下〉―ゆらむぼのクラシック音楽CD評論集