クリストフ・シュペリング (Christoph Spering) 指揮ノイエ・オーケストラ。
この CD には 2 つのモーツァルトのレクイエムが収録されています。一つは一般的なジュスマイヤー補完によるレクイエム。もう一つはモーツァルトの筆だけによるオリジナル版のレクイエムです。
モーツァルトのレクイエムは未完に終わり、アイブラーなどの弟子が補完を試みますが完成には至らず、最終的に弟子ジュスマイヤーによって「一応」の完成を見ます。私達が聞く多くのレクイエムはジュスマイヤー補完によるレクイエムなわけです。
しかし、シュペリングはオリジナル譜からモーツァルトが書いたであろう部分のみを再構成しました。そして、未熟な (失礼!) 弟子の手の入っていない、オリジナルのモーツァルトのレクイエムを録音したわけです。
オリジナルについて
モーツァルトのレクイエムは、最初の「イントロイトゥス」と次の「キリエ」が完成しています。続く「怒りの日」以降はスケッチのみ。主旋律は分かりますが、低弦楽器のパートなどが書かれていません。スケッチは「ラクリモーサ」の第 8 小節目まで続きます。また、「ラクリモーサ」の次に当たる「オッフェルトリウム」のスケッチもモーツァルトは残していました。ラクリモーサを完成させる前に書いていたのでしょうね。モーツァルトの真筆とされるレクイエムは以上です。残る曲はジュスマイヤーの完全創作です。
1961 年、モーツァルトの 16 小節のスケッチが発見されました。「アーメン」と歌ったこの短い旋律は、ラクリモーサの最後にフーガとして付け加えられるものだと考えられています。本 CD では、この 16 小節の「アーメン」も収録しています。未完に終わったアーメン・フーガがフッと消える瞬間、モーツァルトの音楽も終わるのです。
演奏について
最初のテンポは比較的遅めです。しかし、古楽器なのとコーラス隊のピッチが揃っているのとで、ベームのような重くるしさは感じません。
怒りの日に入ると、テンポ・アップ。ジュスマイヤー版もソツなくまとめた良い演奏です。
モーツァルトのオリジナル版については、唯一無二の演奏なので何も言えません。そこにあるのは未完の美。ただただその美しさに酔いしれるのみです。
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