2008-08-17

二十面相の娘 (小原 愼司)

久しぶりに名作と出会いました。「二十面相の娘」というマンガです。作者は小原慎司。全 8 巻。コミック・フラッパーで連載。連載期間は、2003 年 5 月号から 2007 年 2 月号まで。

タイトルに現れる「二十面相」は、あの江戸川乱歩の怪人二十面相です。明智小五郎と小年探偵団のライバルで、人殺しが嫌いな快盗、二十面相です。名前だけタイトルに出しているとか、為者だとかいうのではなく、正統的な「二十面相」です。

舞台は、大戦が終わった後の日本。主人公は、お金持ちの一人娘・美甘千津子。通称チコです。両親を喪くし、財産を狙う叔母夫婦に毒を盛られる日々。賢明な彼女は食事を取らず、何とか生き長らえていましたが、それも限界に近づきます。そんなある日、美甘家の財宝を盗みに入った二十面相が言います。自分と一緒に来るか? と!

二十面相 (とその仲間) と暮らして、チコは二十面相から学びます。生き方と、闘い方と、したたかさと、生き残る方法を。そして、一番重要な考え方を。二十面相は言います。「自分で見て自分で聞いて自分で考える。これ以外に何かを成す方法はない」

二十面相はチコを後継者に選んだかのように、チコが二十面相を教師と選んだかのように、お互いの絆は深まります。

しかし、二十面相との逃亡生活すらも、この物語では序章にすぎないのです。

二年後、襲撃に遭い二十面相一味は四散。二十面相は汽車の爆発に巻き込まれ、生死不明。チコは探偵に見つかり、実家へと連れ戻されます。自分の命を狙う叔母のいる実家へと。仲間が連れ戻しに来てくれると信じながら、チコは待ちます。でも、誰も現れません。彼女は決心を固めます。二十面相の言葉を思い出しながら。

「自分で見て自分で聞いて自分で考える。これ以外に何かを成す方法はない」

迎えが来ないのなら、自分から二十面相を見つけよう (ここまでが二巻目の前半)。

二十面相の英才教育を受けたチコが、二十面相を追いながら、事件に巻き込まれたり、二十面相の遺産を狙う輩と戦かったり、戦争時代の二十面相の過去の仲間と対決したり。気がつけば、彼女は「二十面相の娘」として読者に認知されていくのです。

二十面相について

本作に登場する二十面相は、「快盗」であり「人殺しが嫌い」で、ちょっとした小道具を使い込なしす「変装の名人」。ということで、江戸川乱歩の少年探偵団に登者する二十面相のイメージを全く壊すところがありません。

しかし、チコを育てる教育者の一面は、江戸川乱歩の二十面相にはないものです。「自分で考えなさい」というメッセージの送り方は、二十面相らしくないものです。こういうと変ですが、二十面相以上に二十面相が魅力的です。

思うに、「二十面相の娘」の二十面相はアルセーヌ・ルパンに近いです。仲間思いで、人殺しは嫌いだけど必要な時はためらわない。目的遂行のためには、時に仲間にも頼らず、単独行動を取る。そして、ピンチには変装を解いて颯爽と登場する!! このルパン像から「女たらし」な側面を引くと、「二十面相の娘」の二十面相になる気がします。

乱歩の二十面相も、ルパンをモチーフとしているので、彼らが似てしまものも不思議はないかもしれませんね。

読後。。。

もっと続きが読みたい、と思う作品です。少し悲しい作品でもあります。

「二十面相の娘」は、出会いと別れの作品です。だから、また会えるんじゃないかな? そう期待してもいいでしょうか。

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