2005-12-07

「週刊 石川雅之」(石川雅之)

geroppa さんのエントリーで、ひょんなことから「もやしもん」ネタが飛び出て、ならば同じ作者の「週刊 石川雅之」は読んだか? という話になりました。残念なことにこの名作を、geroppa さんはまだお読みでない。いえ、むしろ、「週刊 石川雅之」をこれから楽しめる点で幸運なのでしょうか。

ここは、一日でも早く「週刊 石川雅之」を手に入れて頂くべく、盛り上げていくのが先人としての勤めではありますまいかっ。

週刊 石川雅之

「週刊 石川雅之」は週刊モーニングに連載された読み切り短編集です。 10 週に渡って掲載された 10 の短編と、それに先がけ前後編で載った中編が収録されています。 内容は SF からハード・ボイルド(?)、時代劇に等身大ドラマ。 笑いあり、ユーモアあり、ハートフルな一面ありと石川雅之の才能が遺憾無く発揮された希有な一冊です。 連載当時、つかみどころなく多彩な設定、多様なジャンルをあますところなく描ききるこの新人の登場に驚いたものです。

最初の短編は読み返す度に面白さが増してくる。今も、この文章を書いてて口元がニヤリと笑ってしまう。もう、ここから石川雅之ワールドにハマってしまいます。「胸」か「脚」かをここまで論じたマンガもないでしょう。「ただそれだけで」は、もう読んでよかった〜と思わせるし、 姫を助けに行く忍者の話などは筋運びの上手さが...

いやいやいやいや、しばらく。
この話、長くなりそうではありませんか?

ここは是非、「週刊 石川雅之」をお読みになって、ブログのエントリーになさいませ (^^)。トラックバックを頂ければ、参上つかまつりますっ!

作者のホームページ

週刊石川雅之
石川 雅之

4063288676人斬り龍馬 もやしもん 2 (2) もやしもん 1 (1) 浅倉家騒動記 1 (1) 米吐き娘 1 (1)
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2005-11-03

Siúil A Rúin

Musical Baton レビューも最後の一回となりました。最後に紹介するのは、Irish Trad (アイルランドの伝統曲) Siúil A Rúin (シューリ・ルゥ) です。

この曲は別名 Johnny Has Gone For A Soldier (ジョニーは戦争へ行った) という曲名でも知られ、Peter, Paul & Mary の 1963 年のヒット曲「Gone The Rainbow (虹と共に消えた恋)」の原曲としても有名です。

Siúil A Rúin について

Siúil A Rúin について素人なりに調べたことを書いてみます。

この曲は、兵士として戦場に出た恋人を待つ女性の歌です。ここで言う「戦場」の説明をするには、アイルランドの歴史がほんの少し必要です。

1603 年、アイルランドは最後の砦アルスターがイングランドに陥落し、イングランドの植民地となります。宗教改命まっただ中の 17 世紀。ボイン川の戦い (1690) とオーグリムの戦い (1691) で決着がつくまでの間、カトリック系のアイルランドはイングランドのプロテスタントと対立し続けます。この戦いで活躍したアイルランド将兵が敗戦後、フランスなどに渡り「ワイルド・ギース」として知られるようになります。Siúil A Rúin で歌われる恋人は、この「ワイルド・ギース」として海を渡った傭兵のようです。

本来、ゲール語で歌われていたであろうこの曲は、(メイフラワー号と一緒に?) アメリカに渡り独立戦争 (1775-1783) で歌われたそうです。そのため、この曲は英語とゲール語が入り混じるという、一風変わった曲になりました (独立戦争ではなく南北戦争でアメリカにこの曲が渡ったと書いてある本もありました)。

Siúil A Rúin の表記については、Suil A Ruin, Siúil A Rún, Shule Aroon, といったものも見かけますが、どれが正しいのか私には分かりません。探せば、もっと色々な表記があると思います。

Siúil A Rúin の CD

Siúil A Rúin を初めて聴いたのは「The Civil War」というサントラの中でした。これは 1990 年頃の同名海外ドキュメンタリー (未見) のサントラ盤で、南北戦争当時の音楽 (Battle Cry of Freedom や Battle Hymn of the Republic) などが収録されています。私は D. D. Emmett の「Dixie」という曲を求めてこの CD を買ったのですが、ピアノとリコーダーだけで演奏される「Johnny Has Gone For A Soldier」を聴き、心を奪われてしまいました。とても悲しげで、ゆっくりしっとり語りかけるような演奏は秀逸です。しかし、ブックレットには old Irish folksong とだけしか情報がありませんでした。折りしもアイリッシュ音楽がブームだったこともあり、その手の本を探しまくって、原曲名が Siúil A Rúin であることを突きとめました。

手持ちの CD は以下の通りです。この中では、特に PPM と Solas の演奏がお気に入り。


Clannad / Shanachie(1990/10/25)
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アコースティック・クラナドの傑作アルバム


Paul & Mary Peter / Warner Bros.(1989/08/04)
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Folk


アナム / ビクターエンタテインメント(1996/11/21)
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Solas / Shanachie(1996/06/04)
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きれい
とにかく試聴してみて!


ボーイズ・エアー・クワイア / ビクターエンタテインメント(1999/10/21)
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今までにない作品でした。
ケルト音楽を天使の声で


Original Soundtrack / Bottom Line(1997/09/02)
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2005-10-10

天には栄え / あら野の果てに (マライア・キャリー)

あれは 2000 年のクリスマス前のことでした。合唱好きな友人が、買いたい CD があるということで、一緒に HMV に行くことになりました。テレビか何かでかかっていた曲で、グロ〜リア〜 と歌う部分がとても素晴らしい。クリスマスによくかかる曲で、今なら HMV で手に入るはずだ。彼に言う通り、店内でその曲がかかっていました。彼は CD を買った後、この曲の名前は「あめにはさかえ」というのだ。と教えてくれました。

当時、その曲に興味を持っていなかった私は、彼の買った CD もチェックせず、そのうち彼とは音信がとだえてしまいました。しかし、年が経つごとに、私の頭の中ではあの「グロ〜リア〜」のフレーズが頭から離れず、今年に入るとその曲が欲しくてたまらなくなりました。しかし、メロディーだけしか分からない曲を探すのがどれほど困難なことか! 一度でも試みたことがある方なら、その難しさをご存じのことでしょう。

一番簡単な方法は、身近に居る合唱好き (or クラシック好き) にメロディーを歌って聞かせ、CD を借してもらうことでしょう。しかし、不幸なことに私の周りにはクラシック好きがほとんどいません。そこで、思い出したのが彼の言葉です。

この曲の名前は「あめにはさかえ」というのだ。

思えば、これが全ての間違いだったとしか思えません。というのも、彼の言ったことは間違っていたからです。

ともかく、曲名を思い出したからには自分の CD コレクションの中に既にあるのではと調べてみました。すると、「ウィーン少年合唱団ベスト」に「天には栄え〈聞けや歌声〉(メンデルスゾーン) Hark! The herald angels sing」とあるではないですか。きっとこれは、彼の言っていた「あめにはさかえ」に違いない。期待を胸に CD をプレーヤーにかけました... が、「グロ〜リア〜」のメロディーは出てきません。

さて、「天には栄え」は賛美歌です。つまり、テキストがあって、それに曲がついています。クラシックの世界には一つのテキストに複数の曲がついているものはいくらでもあります。シューベルトとウェルナーの作曲で有名な「野ばら」、同じくシューベルトとグノーの作曲で有名な「アヴェ・マリア」、他にも「レクイエム」を始めとする宗教曲のテキストは基本的に同じです。そして、「天には栄え」もそうした曲の一つなのでは? と考えました。しかし、メンデルスゾーン以外で「天には栄え」の曲を書いた人はいないのですね...

やがて、曲名が間違っているんじゃないかと思えてきました。「あめにはさかえ」ではなくて、「あめにぬれても」では? (冗談)。

もう、音楽に詳しい人に聞くしかない。そういうわけで、京都は三条の「十字屋」という CD 屋さんで店員をつかまえて聞きました。

ぼく: すいません。クラシック詳しいですか?
店員: はい。
ぼく: メロディーだけ分かる曲があるんですが、曲名が分からないんです。
ぼく: 歌うんで、曲名分かりますかね?
店員: ...
ぼく: アー、アアアアー。アアアアー、アアア、グロ〜リア〜。
店員: 有名な曲ですね。少々お待ち下さい。
 ... 店員さん、下のフロアの楽譜売り場から楽譜を持ってきて ...
店員: このメロディーですね。
ぼく: すいません、五線譜が読めないんです。
 ... 五線譜をなぞりながら ...
店員: アー、アアアアー。アアアアー、アアア、グロ〜リア〜。
ぼく: ああ、そうです。何て曲ですか?
店員: 「あら野の果てに」です。

「あめにはさかえ」と全然違うじゃないか。

店員さん曰く、クリスマス・シーズンなら試聴もできて CD も揃っていたけれど、もうシーズンは終わってしまった (私が店に行ったのは 1 月 29 日) らしい。CD を探したけれど、「荒ら野の果てに」の入った CD はなかったので、今年のクリスマスにリベンジを誓ってその日は家へ...

事態が進展したのは、一か月程前。ブックオフで 250 円の CD を漁って聴いていたら、「グロ〜リア〜♪」のメロディーが流れてくるではありません。CD は「MARIAH CAREY * MERRY CHRISTMAS」で、9 曲目「Hark! The Herald Angels Sing / Gloria (In Excelsis Dea)」。ん、前半の曲名は、日本語題名「天には栄え」。そうです、「天には栄え」と「グローリア (荒ら野の果てに)」のメドレーになっていたのです。

思わぬことで、自分も気づかぬうちに、目当ての CD が手に入りました。きっと彼が手に入れた CD も、マライア・キャリーのクリスマス・アルバムだったのでしょう。そして、誤って曲名を覚えたに違いありません。長年の謎が、解けた気がします。


マライア・キャリー / Sony Music Direct(2004/11/03)
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ウィーン少年合唱団, ウィーン室内管弦楽団, ウェルナー, ブラームス, モーツァルト, ウィーン交響楽団, シューベルト / ユニバーサルクラシック(2005/06/22)
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2005-10-09

ベートーヴェンのピアノ・ソナタ No.14 「月光」 (シュナーベル)

[2008-08-24 改訂]

Musical Baton レビューの四回目。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第 14 番「月光」について書きます。

私が「月光」で一番好きなのは、アルトゥール・シュナーベルの演奏 (録音: 1934-04-23) です。シュナーベル (Artur Schnabel) は、1882 年生まれ。ベートーヴェン弾きとして有名で、最初のベートーヴェン・ピアノソナタ全集を録音した人物です。イギリスでは今も彼の全集を「ピアノ・ソナタ全集の聖典」と言うそうです。

そして私が初めて買った CD ボックスこそ、シュナーベルのピアノ・ソナタ全集でした。

実を言うと、購入当初、私はシュナーベルの良さが分かりませんでした。今思えば、音の古さ (沢山ノイズが入ってます) を気にしすぎたり、「月光かくあるべし」という思い込みに耳がダマされていたのだと思います。当時はクラシック初心者で、まだクラシック音楽の楽しさを理解していなかったというのもあります。

聴き比べ

シュナーベルの良さに気づいたきっかけは、三枚の「月光」の聴き比べでした。

ある日、名盤と誉れの高いバックハウスの全集 (新盤) を手に入れました。一通り聴き終えて、今度はじっくり好きな曲 (つまり月光なわけですが) を聴きたくなりました。それで、ついでとばかり手元にあった CD を聴き比べを始めたのです。その時、私が持っていたのは、シュナーベル、バックハウス (新盤)、そしてギーゼキングの三枚でした。

さて、少し曲の解説を。「月光」という題名は、レルシュタープという詩人が第一楽章を「ルツェルン湖の月光の波間に揺れる小舟」と例えたことで定着した俗称です。そのため湖面に浮かぶ月光をイメージする人も多いかと思います。一方、ベートーヴェン自身は (第 13 番のピアノ・ソナタと合わせて) これを「幻想風ソナタ」と呼んでいました。ここで言う「幻想風 (Fantasie)」とは、幻想曲という意味ではなく、形式に縛られない程度の意味合いしかないそうです。

閑話休題。

バックハウスの第一楽章は、レルシュタープが思い浮かべた心象を見るような静かな演奏です。感情が抑えめで、心がリラックスします。何度も聴き直したくなる、全くの名演です。

二枚目のギーゼキングは、月の光というより「幻想的」。第一楽章から第三楽章に繋げる構築力が素晴らしい名演です。まず、第一楽章はバックハウスと比べて情緒が足りなく思います。しかし、それは第一章楽だけを聴いているからです。第二楽章から第三楽章にかけて聴くと、とても一体感のある仕上がりになっています。ギーゼキングの演奏は、ピアノ・ソナタ全体のバランスを考えると、調度良い案配になっています。

三枚目のシュナーベル。彼の演奏は先の二人と冒頭から雰囲気が違います。そこには「月の光」も「自由な幻想」もありません。ただただ緊張感があるだけです。少し速めのペースで、音楽がせきたてられます。襟を正して聴くような第一楽章。緊張感を維持してテンポの上がる第二楽章。そして、激しく、心臓をわしづかみにするような第三楽章。テクニックの乱れも散見しますが、聴き込んでしまいます。いえば、これは混じりっ気のないベートーヴェン作曲ピアノ・ソナタ第 14 番作品 27-2 でした。

もしベートーヴェン本人が「月光」ソナタを弾いたら、 後世の人が付けた「月光」のイメージも、 自分で付けた「幻想風ソナタ」のイメージもなくて、 きっとその演奏は 14 番目のソナタを弾くものでしかなかったでしょう。

シュナーベルの演奏は正にそう。ベートーヴェンが生まれかわって弾いたかのような錯覚に陥るのです。ベートーヴェンのことは伝記と絵だけでしか知りません。でも、あのしかめっ面がピアノの弾いたら、こんな風になるんじゃないかしらん、と思わせる演奏です。心を休めるのに聴く演奏ではありませんが、本当のピアノ・ソナタ第 14 番を聴きたくなった時、私はこの一枚を取り出します。

蛇足

シュナーベル盤は、技術的にも録音的にも拙いものです。最近の CD に聴き慣れた耳には厳しいかもしれません。もし、もっといい音で聴きたければ、フランスのピアニスト、イヴ・ナット (Yves Nat) の全集がお勧めです。

Beethoven: Piano Sonatas Integral 1930-1956

2005-09-18

コルボ指揮、モーツァルトのレクイエム

Musical Baton レビューの三回目。モーツァルトのレクイエムについて思いのたけを書こうと思います。

モツレク。いわゆる、モーツァルトのレクイエムに私がハマったのは、ごく最近のことです。ChangeLog メモによると、2004 年 5 月 7 日にモツレクの初 CD を注文、5 月 25 日に初めて聴いたとあります。その時買ったのが、ミシェル・コルボ指揮ジュネーヴ室内管弦楽団によるモツレクの録音でした。以来、私はコルボの虜となってしまったのでした。

指揮者のミシェル・コルボは合唱指揮者出身の指揮者で、1960 年頃からずっと声楽一筋にやってきた人です。合唱指揮というのは、合唱団専門の指揮者のことですね。海外には有名な合唱団が沢山あります。例えば、ウィーン少年合唱団なんかは、国内でも簡単に CD が手に入ります。私達がよく耳にする所では、ベートーヴェンの交響曲第九番「合唱付き」などで合唱がつきますが、その合唱団のまとめ役なんかをするのも仕事の一つです。

コルボの合唱を聴くと、他の指揮者と合唱の揃い方が違うのが分かります。合唱は基本的にテナーとかソプラノのようなパートごとに数人が組んで歌っているのですが、コルボの合唱の場合、まるでそれが一つの楽器のように聴こえるのです。そのため、コルボは「合唱の神様」と呼ばれています (と、最近知りました ^^;)

コルボはモツレクを三回録音しています。一回目は 1975 年にグルベンキアン管弦楽団と合唱団と。二回目は 1990 年? (未聴)。三回目は 1995 年 9 月 24 日 の Fribourg Festival でのライブ録音で、ジュネーヴ室内管弦楽団とローザンヌ声楽アンサンブルを振っています。私が一番好きなのは、三回目のライヴ録音です。

コルボのモツレクの録音は、一回目の録音の方が「温かみがあってよい」と評価が高く、三回目は優しさがないと言われているようです。確かに、旧盤を聴くと音が柔らかく、声に安らぎがあるように感じられます。それに比べると、新盤は合唱こそ綺麗なのですが、どこか人間らしくありません。血が通っていないというんでしょうか、突き放されたような印象があります。

ただ、初めて聴いた演奏だからでしょうか? それとも、「冷たさ」が好きなせいでしょうか。そういった非人間的なレクイエムもありじゃないかと思ってしまうのです。なんか、自分が「死者」になった気になって聴く一枚、という感じで私は新盤の方が好きだったりします。

ところで、モツレクというと、モーツァルトの未完の大作という事で有名です。その後を受けて、弟子のジュスマイヤーが曲を補筆して完成させたわけですが、ここ 50 年ほど、ジュスマイヤー作の部分はよろしくないとして幾つかの「別版」が出てきました。その経緯などについては山岸氏の「モーツァルト「レクイエム」の版について」が詳しいです。

コルボの場合、旧盤がジュスマイヤー版。新盤がバイヤー版となっています。この他にも、モンダー版、ランドン版、レヴィン版、ドゥルース版などがあります。これらは、最小限の修正を加えたもの、アーメン・フーガを加えたもの、自分勝手に作曲したものなど様々ですが、どれも一クセある曲に仕上がっているので、「版」の違いを比べるのもモツレクの楽しみの一つと言えると思います。コルボ以外のモツレクについても、時間があれば書くつもりですので、お楽しみに。

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2005-09-11

刑事コロンボのテーマ曲について

mixi で、「刑事コロンボ」マニヤと言われてしまいました。何をもって「マニア」とするかは人それぞれでしょうが、自分より凄い人が居る事を知っていながら「マニア」を名乗るのはおこがましいかと思い、あえて自分をマニアとは呼ばないことにしています。刑事コロンボについて 30 分以上話せと言われれば、話しますが...

それはともかく、「刑事コロンボ」マニヤと呼ばれてしまった事は確かなので、エントリーを書くことにしました。お題は刑事コロンボのテーマ曲です。

コロンボのテーマ曲というと、コロンボ冒頭でかかる口笛のような曲を思い浮べる方もいらっしゃると思いますが、あれは違います。本来、刑事コロンボは、NBC の Sunday Mystery Movie という TV シリーズの中で放映されていました。この Mystery Movie は一時間半のミステリー TV 枠で、3、4 種類のミステリー映画をローテーションで回して放映する形式を取っていました。刑事コロンボは良作ですが、毎週放映されていたわけでも、前後編に分けて放映されていたわけでも、また不定期に作られていたわけでもないのです (人気が出た後は、不定期にも制作されましたが...)。

皆さんが「刑事コロンボのテーマ」として知っている曲は、この Mystery Movie のオープニング・テーマ曲です。原題は「Mystery Movie Theme」 (そのまんまですね ^^)。作曲はピンクパンサーのテーマ曲でも知られるヘンリー・マンシーニです。日本では「刑事コロンボ」以外放映されなかったので「刑事コロンボ」のテーマとして知られていますが、本国では Mystery Movie にかかる他のミステリー番組の頭でもかかっていたのです。

さて、そうなると「刑事コロンボ」にはテーマ曲がないのでしょうか? そんなことはありません。オリジナル曲ではありませんが、れっきとしたテーマ曲があります。それは「This Old Man (knick-knack, patty-whack)」というマザーグースです。日本語題名は「おじいさん」? マザーグースにも色々種類がありますが、これは「数え歌」の一種です:

This old man, he played one

He played knick-knack on my thumb

With a knick-knack, patty-whack

Give a dog a bone

This old man came rolling home

一行目の one を、two, three, four に、二行目の thumb を shoe, knee, door に変えながら ten になるまで繰り返し歌います。一種の遊び歌ですね。knick-knack を辞書で索くと、「おもちゃ」と出ました。patty-whack は分かりません。どうやら、囃子言葉の一つのようです。

「刑事コロンボ -- レインコートの中のすべて」によると、ピーター・フォークが口ずさんでいたものを「これはいい」とテーマ曲として使うようになったとか。コロンボを観ていると、何気ないシーンでこの曲がかかっているのが分かります。気にせずに観ていたら、きっと気付かないことでしょう。特に「新・刑事コロンボ」では、この曲が頻繁にかかっている気がします。コロンボを見る機会があったら、音楽に注意してみて下さい。

といっても日本人はマザーグースを知らないので曲が分かりませんね。近くにイギリス人かアメリカ人でも居れば、直接聞いてみればいいでしょう。もし、そういう人が周りに居なかったらウェブを検索するか、子供用の英語の歌の CD を探してみると見つかるでしょう。私は「ディズニー・みんなの英語の歌ベスト」という CD でこの曲を聞きました。この CD は、Mickey Mouse March や It's a Small World などのディズニーの曲も入っていて、ゴキゲンな一枚です (オリジナル曲 Just for You もオススメ)。今、Amazon では売り切れみたいですが、輸入盤はあるようです (試聴もできるみたい!)。

2005-09-10

フランクのヴァイオリン・ソナタ by ティボー & コルトー

Musical Baton で挙げたフランクのヴァイオリン・ソナタについて思いのたけを書こうと思います。

Musical Baton で挙げたクラシック曲を比べれば、フランクのヴァイオリン・ソナタだけが知名度において他の三つより劣るでしょう。フランクのヴァイオリン・ソナタなど知らないという方もいらっしゃるでしょう。もしかしたら、作曲家フランクを知らない人もいるかもしれません。でも、もし貴方がピアノ好きだとしたら、フランクのヴァイリン・ソナタは是非知っていて欲しい。

私がフランクのヴァイオリン・ソナタを初めて知ったのは、あらえびす著「名曲決定盤」の中でした。「あらえびす」は本名を野村長一といい、もう一つのペンネーム「野村胡堂」は「銭形平次」の作者名として有名です。彼は戦前・戦後を代表するレコード・マニアでした。「名曲決定盤」はその集大成の一つで、演奏者ごとに名盤を紹介するスタイルを取っています。フランクのヴァイオリン・ソナタはヴァイオリン奏者ティボーの項で登場します。少し長いですが、抜粋します。

フランクのソナタは、古今のヴァイオリン・ピアノ・ソナタの中でも屈指の名作で、 この曲に匹敵するものを、私は幾つも知らない。 極言することを許してもらえるならば、あらゆるヴァイオリン・ピアノ・ソナタ中、 最高、至純、至美のものであると言いたいくらいである。 ベートーヴェンのソナタのうち、僅かに一、二のものが、これと美しさを争うであろう。 ブラームスのソナタのうち、これもほんの一つか二つが、 辛くも、このフランクのソナタの深さと高さに追従するであろう。 しかし、美しさと深さと、高さと浄らかさを兼ね備える点においては、 ベートーヴェンもブラームスも、--- 時代と環境のハンディキャップはあるにしても、 フランクの名品の敵ではなかったのである。

この文章に魅かれて、私はフランクのヴァイオリン・ソナタの虜になりました。当時私は大学生で、ヴァイオリン・ソナタはベートーヴェンの「クロイツェル」と「春」しか聴いたことがなかったと思います。それでも、あらえびすの言葉は色褪せることもなく、私を CD 売り場へと突き動かしました。

一聴、フランクのヴァイオリン・ソナタはベートーヴェンのそれより取っつき難かったです。例えば、聴き始めの頃は、第三楽章がよく分かりませんでした。理由はきっと曲の構成にあると思います。例えばベートヴェンのクロイツェルだと、きれいなメロディーが出てきて、楽章ごとに曲が (ある程度) 完結しています。一方、フランクのヴァイオリン・ソナタは、ソナタ一曲で完結していて第一楽章、第二楽章、第三楽章で出てきたメロディーが第四楽章でもう一度顔を出します。だから一つの楽章だけを取り出すだけでは、面白みに欠けるる気がします。それに曲調も渋いので、楽しいメロディーを期待していると肩すかしを喰らいます。でも、一度四つの楽章が頭に入ると、この構成美にハマッてしまいました。

フランクのヴァイオリン・ソナタのもう一つの聴き所はピアノの活躍です。ヴァイオリン・ソナタというと、主はヴァイオリンで、ピアノは少し軽めにみてしまいがちですが、フランクのヴァイオリン・ソナタは違います。全編を通じて、ヴァイオリンとピアノが対話します。特に第四楽章。第三楽章の暗い雰囲気の終わりから、光が差すような、蕾が開くような、吸い込まれるような、始まり方は、全てのクラシックの曲の中でも至高のものだと私は思います。

そんなわけで、ヴァイオリンがよくてもピアノが拙いと一向に面白くないのですが、大物を二人揃えればよいかというと、そうでもないのがこの曲の難しい所です。

沢山ある CD の中で、私が特に好きなのはティボーとコルトーが組んだものです。彼らはこの曲を 1923 年と 1929 年に二回録音しています。マニアの間で評価が高いのは 1923 年盤ですが、私が好きなのは 1929 年の新録音です。理由は、曲の始まりから感じられる緊張感、緊迫感。二人が熱くなっているのを感じられて、丁寧なんて言葉はいらない。ミスタッチなんか気にならない。という気になってしまうのです。聴き終わると、ちょっと疲れてしまう (気力の要る) 演奏ですけど、心揺さ振られる名演です。

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2005-08-28

フルトヴェングラーの運命ライブ 1947.5.27

Musical Baton で挙げた「よく聞く、または特別な思い入れのある 5 曲」から、一つずつ取り上げて、思いのたけを書こうと思います。今回は、私が一番好きなベートーヴェンの交響曲第五番ハ短調「運命」です。

私の「運命」の愛聴盤はフルトヴェングラーが 1947 年 5 月 27 日にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を振った一枚です。フルトヴェングラーはベルリン・フィルの三代目常任指揮者で、第二次大戦中の演奏活動を連合軍に糾弾され、演奏を禁止されてしまいます。そんな彼が裁判で無罪を勝ち取り、戦後、公開で初めてコンサートを開いたのが 1947 年 5 月 25 日です。そして、いわゆる戦後の復活コンサートの三日目に演奏された「運命」こそが、私の一番好きな「運命」になります。

フルトヴェングラーはベートーヴェンの「運命」を得意にしていた指揮者で、(CD のブックレットによると) 8 種類の録音があるそうです。そのため、録音年月日や管弦楽団が分からないと、どの録音の話をしているのか分からなくなります。こと、戦後復活ライブに関し ては、5 月 25 日に演奏された「運命」の録音も残っており、ファンの間ではどちらの演奏がすばらしいかが議論の的になっています。

私は 44 年のライブ録音、47 年 5 月 25 日と 27 日のライブ録音、そして 54 年のステレオ録音を持っていますが、やはり、一番は 5 月 27 日です。まず、他にない緊迫感。冒頭のダ・ダ・ダ・ダーンは 54 年のステレオ録音を初めて聴いたとき、こんな「運命」があるのかと高校生ながら驚きましたが、47 年 5 月 27 日はさらに迫力があって長い。これこそ、ベルリンの観客が何年も待っていた音なのだと思いました。そして、怒涛の第四楽章。一気呵成、テンポを上げながらコーダに突っ込む様は圧巻。録音時間だけを取れば 44 年のライブのほうが早いのに、こちらの方が速く聞こえるのです。

ベートヴェンの「運命」は第四楽章のコーダに向かって全てが集約されていくような音楽で、フルトヴェングラーの指揮は、それを最高の形で音にしてくれているような気がします。

2005-08-20

The Dark Is Rising

「The Dark Is Rising」は英国の女流児童作家スーザン・クーパー女史の代表作で、邦題を「光の六つのしるし」といいます。「光の六つのしるし」は続編の三冊、それとシリーズ化の構想もない時期に書かれた作品一つと併せて「The Dark Is Rising Sequence」というシリーズを構成しており、日本では「闇の戦いシリーズ」として親しまれています。

「闇の戦いシリーズ」は、アーサー王伝説を下敷きに<光>と<闇>の時間を越えた戦いを描いたファンタジーです。時間を越えるといってもタイムトラベルを繰り返す冒険活劇ではなく、失われた都市を訪ねたり、微かな音楽の調べとともに時間の門が開いたり、旅人が各地を巡るように主人公たちは静かに時の流れを巡ります。この作品にとって、時間は必ずしも世界を支配しているものではありません。作中では、何度も過去は未来に影響を与え、未来は過去に影響を与えるといわれています。時間の概念云々をいうファンタジーも珍しいですが、そもそもアーサー王伝説に出てくる魔法使いマーリンが時間を逆に生きる予言師であり、「闇の戦いシリーズ」の主要キャラクターなのですから、むしろ正当なファンタジーなのかもしれません (あくまで、アーサー王伝説を下敷きにしたファンタジーとしては、という意味ですが)。

邦題の「光の六つのしるし」は、主人公が<光>側の切り札となる六つのしるしを集めることに由っています。では原題の「The Dark Is Rising」は何に由るかというと、これはシリーズ全体で詠われる予言の詩

When the dark is rising, six shall turn back...

<闇>の寄せ手が攻め来る時、 六たりの者、これを押し返す...

の冒頭から来ています。「When the dark is rising」が「 <闇>の寄せ手が攻め来る時」とは名訳ではありませんか! 直訳すれば「<闇>が起ち上がるとき」、書名にするなら「<闇>の蜂起」となりましょうか。<光>との何千年にも渡る争いに、終止符を打つべく<闇>の軍勢が起ち上がる。「光の六つのしるし」は、そんな不穏な影が忍び寄るクリスマスの朝から始まります。雪のちらつく中、次第と牙を剥く<闇>の脅威。主人公のウィル・スタントンは、11 歳の誕生日を迎えたその日に、<光>の最後の<古老>たる力に目覚めるのです。

私は中学生で「光の六つのしるし」を読み、以来シリーズのファンです。中学時代、一番好きだった本は、自信を持って「闇の戦いシリーズ」だと言えます。もうすこし言えば、私は欠点を含めて主観的に一番好きなものと、客観的な評価 (?) で好きなもの (それでも十分主観が入っていますが...) を分ける傾向があります。そして、客観で見たファンタジー No.1 は (当然?) 「指輪物語」で、主観的ファンタジー No.1 が「闇の戦いシリーズ」になります。つまりは大好きということです。

ファンタジーに餓えているなら、是非この一冊を手にとって見てください。大人でも楽しめると思います。

光の六つのしるし
4566013006
スーザン・クーパー 浅羽 莢子


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2005-07-28

Musical Baton 再掲

本来、このブログの内容たるべき Musical Baton ですが、当時このブログはなかったため clmemo@aka で書きました。加筆・修正はありませんが、clmemo@aka: Musical Baton (ミュージカル・バトン)clmemo@aka: Musical Baton の逆リンク の内容を再掲します。


ミュージカル・バトンを zRyu さんから渡されてしまった! これは受けねばなるまい。日本における Musical Baton の流れは Musical Baton の泥臭いまとめが参考になるかな。

今コンピュータに入っている音楽ファイルの容量

1.7 GB (wav)

少ないということは、こういう事を言うんだろうな。mp3 でも ogg でもありません。wav です! 圧縮なしです。音質優先です!

基本は CD 持って行って (持って来て) かけてます。

今聞いている曲

メンデルスゾーンの弦楽八重奏曲 Op.20。たまたま、かけてた CD がこれというだけ。

最後に買った CD

The Best Smooth Jazz...Ever! [Capitol]。お台場の HMV で、4 枚組 1690 円でした (セールス値段)。

よく聞く、または特別な思い入れのある 5 曲:

  1. ベートーヴェン: 交響曲第 5 番「運命」 フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィル (1947.5.27)
  2. フランク: ヴァイオリン・ソナタ ティボー、コルトー (1929.5.28)
  3. モーツァルト: レクイエム K.626 (バイヤー版) コルボ指揮ローザンヌ器楽・声楽アンサンブル (1995.9.24)
  4. ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ第 14 番「月光」 シュナーベル (1934.4.23)
  5. アイルランド民謡: Siúil A Rúin (Johnny Has Gone for a Soldier)

括弧の中の数字は録音年月日。

Comments:

1. 最高の「運命」。戦後の復活ライブ第 3 日目! 2. マニアの中で評価の高い 1923 年の旧録音ではなく、新録音の方。異常な緊張感がスキ。 3. 70 年代の旧録音ではなく 1994 年のバイヤー版による新録音。サラリと進む冷たさに惹かれる。 4. 襟を正して聴かずにはいられない。ベートーヴェンのピアノ・ソナタの聖典! 5. 一枚に絞れません。PPM, Solas, Anam, Clannad 甲乙つけ難し。アメリカの TV シリーズ Civil War のサントラにあるピアノ・バージョンも出色。

Musical Baton の逆リンク

せっかく 回って来たことだし、 Musical Baton の泥臭いまとめを参考に逆リンク。一番上が、日本の Musical Baton の起点。

2005-07-27

新しく、ブログを始めます。

今まで Blogger でブログを公開してきましたが、もう一つブログを公開する事にしました。ブログ名は life@aka です。内容の住み分けは、次のようにするつもりです。

clmemo@aka
コンピューター & ネット関連のネタ
life@aka
生活に関連した話題。趣味 (音楽・映画・本・映画) に関連したネタ

基本的に、clmemo@aka はフランクな文体で更新頻度高め、life@aka は少し硬めの文体で週一位いの頻度で進めるつもりです。

古いブログも新しいブログも、御贔屓を。