Musical Baton レビューの三回目。モーツァルトのレクイエムについて思いのたけを書こうと思います。
モツレク。いわゆる、モーツァルトのレクイエムに私がハマったのは、ごく最近のことです。ChangeLog メモによると、2004 年 5 月 7 日にモツレクの初 CD を注文、5 月 25 日に初めて聴いたとあります。その時買ったのが、ミシェル・コルボ指揮ジュネーヴ室内管弦楽団によるモツレクの録音でした。以来、私はコルボの虜となってしまったのでした。
指揮者のミシェル・コルボは合唱指揮者出身の指揮者で、1960 年頃からずっと声楽一筋にやってきた人です。合唱指揮というのは、合唱団専門の指揮者のことですね。海外には有名な合唱団が沢山あります。例えば、ウィーン少年合唱団なんかは、国内でも簡単に CD が手に入ります。私達がよく耳にする所では、ベートーヴェンの交響曲第九番「合唱付き」などで合唱がつきますが、その合唱団のまとめ役なんかをするのも仕事の一つです。
コルボの合唱を聴くと、他の指揮者と合唱の揃い方が違うのが分かります。合唱は基本的にテナーとかソプラノのようなパートごとに数人が組んで歌っているのですが、コルボの合唱の場合、まるでそれが一つの楽器のように聴こえるのです。そのため、コルボは「合唱の神様」と呼ばれています (と、最近知りました ^^;)
コルボはモツレクを三回録音しています。一回目は 1975 年にグルベンキアン管弦楽団と合唱団と。二回目は 1990 年? (未聴)。三回目は 1995 年 9 月 24 日 の Fribourg Festival でのライブ録音で、ジュネーヴ室内管弦楽団とローザンヌ声楽アンサンブルを振っています。私が一番好きなのは、三回目のライヴ録音です。
コルボのモツレクの録音は、一回目の録音の方が「温かみがあってよい」と評価が高く、三回目は優しさがないと言われているようです。確かに、旧盤を聴くと音が柔らかく、声に安らぎがあるように感じられます。それに比べると、新盤は合唱こそ綺麗なのですが、どこか人間らしくありません。血が通っていないというんでしょうか、突き放されたような印象があります。
ただ、初めて聴いた演奏だからでしょうか? それとも、「冷たさ」が好きなせいでしょうか。そういった非人間的なレクイエムもありじゃないかと思ってしまうのです。なんか、自分が「死者」になった気になって聴く一枚、という感じで私は新盤の方が好きだったりします。
ところで、モツレクというと、モーツァルトの未完の大作という事で有名です。その後を受けて、弟子のジュスマイヤーが曲を補筆して完成させたわけですが、ここ 50 年ほど、ジュスマイヤー作の部分はよろしくないとして幾つかの「別版」が出てきました。その経緯などについては山岸氏の「モーツァルト「レクイエム」の版について」が詳しいです。
コルボの場合、旧盤がジュスマイヤー版。新盤がバイヤー版となっています。この他にも、モンダー版、ランドン版、レヴィン版、ドゥルース版などがあります。これらは、最小限の修正を加えたもの、アーメン・フーガを加えたもの、自分勝手に作曲したものなど様々ですが、どれも一クセある曲に仕上がっているので、「版」の違いを比べるのもモツレクの楽しみの一つと言えると思います。コルボ以外のモツレクについても、時間があれば書くつもりですので、お楽しみに。
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