2005-09-10

フランクのヴァイオリン・ソナタ by ティボー & コルトー

Musical Baton で挙げたフランクのヴァイオリン・ソナタについて思いのたけを書こうと思います。

Musical Baton で挙げたクラシック曲を比べれば、フランクのヴァイオリン・ソナタだけが知名度において他の三つより劣るでしょう。フランクのヴァイオリン・ソナタなど知らないという方もいらっしゃるでしょう。もしかしたら、作曲家フランクを知らない人もいるかもしれません。でも、もし貴方がピアノ好きだとしたら、フランクのヴァイリン・ソナタは是非知っていて欲しい。

私がフランクのヴァイオリン・ソナタを初めて知ったのは、あらえびす著「名曲決定盤」の中でした。「あらえびす」は本名を野村長一といい、もう一つのペンネーム「野村胡堂」は「銭形平次」の作者名として有名です。彼は戦前・戦後を代表するレコード・マニアでした。「名曲決定盤」はその集大成の一つで、演奏者ごとに名盤を紹介するスタイルを取っています。フランクのヴァイオリン・ソナタはヴァイオリン奏者ティボーの項で登場します。少し長いですが、抜粋します。

フランクのソナタは、古今のヴァイオリン・ピアノ・ソナタの中でも屈指の名作で、 この曲に匹敵するものを、私は幾つも知らない。 極言することを許してもらえるならば、あらゆるヴァイオリン・ピアノ・ソナタ中、 最高、至純、至美のものであると言いたいくらいである。 ベートーヴェンのソナタのうち、僅かに一、二のものが、これと美しさを争うであろう。 ブラームスのソナタのうち、これもほんの一つか二つが、 辛くも、このフランクのソナタの深さと高さに追従するであろう。 しかし、美しさと深さと、高さと浄らかさを兼ね備える点においては、 ベートーヴェンもブラームスも、--- 時代と環境のハンディキャップはあるにしても、 フランクの名品の敵ではなかったのである。

この文章に魅かれて、私はフランクのヴァイオリン・ソナタの虜になりました。当時私は大学生で、ヴァイオリン・ソナタはベートーヴェンの「クロイツェル」と「春」しか聴いたことがなかったと思います。それでも、あらえびすの言葉は色褪せることもなく、私を CD 売り場へと突き動かしました。

一聴、フランクのヴァイオリン・ソナタはベートーヴェンのそれより取っつき難かったです。例えば、聴き始めの頃は、第三楽章がよく分かりませんでした。理由はきっと曲の構成にあると思います。例えばベートヴェンのクロイツェルだと、きれいなメロディーが出てきて、楽章ごとに曲が (ある程度) 完結しています。一方、フランクのヴァイオリン・ソナタは、ソナタ一曲で完結していて第一楽章、第二楽章、第三楽章で出てきたメロディーが第四楽章でもう一度顔を出します。だから一つの楽章だけを取り出すだけでは、面白みに欠けるる気がします。それに曲調も渋いので、楽しいメロディーを期待していると肩すかしを喰らいます。でも、一度四つの楽章が頭に入ると、この構成美にハマッてしまいました。

フランクのヴァイオリン・ソナタのもう一つの聴き所はピアノの活躍です。ヴァイオリン・ソナタというと、主はヴァイオリンで、ピアノは少し軽めにみてしまいがちですが、フランクのヴァイオリン・ソナタは違います。全編を通じて、ヴァイオリンとピアノが対話します。特に第四楽章。第三楽章の暗い雰囲気の終わりから、光が差すような、蕾が開くような、吸い込まれるような、始まり方は、全てのクラシックの曲の中でも至高のものだと私は思います。

そんなわけで、ヴァイオリンがよくてもピアノが拙いと一向に面白くないのですが、大物を二人揃えればよいかというと、そうでもないのがこの曲の難しい所です。

沢山ある CD の中で、私が特に好きなのはティボーとコルトーが組んだものです。彼らはこの曲を 1923 年と 1929 年に二回録音しています。マニアの間で評価が高いのは 1923 年盤ですが、私が好きなのは 1929 年の新録音です。理由は、曲の始まりから感じられる緊張感、緊迫感。二人が熱くなっているのを感じられて、丁寧なんて言葉はいらない。ミスタッチなんか気にならない。という気になってしまうのです。聴き終わると、ちょっと疲れてしまう (気力の要る) 演奏ですけど、心揺さ振られる名演です。

名曲決定盤 (上)
4122008638
あらえびす


Amazonで詳しく見る
by G-Tools 名曲決定盤 下  中公文庫 M 162-2
4122008719
あらえびす


Amazonで詳しく見る
by G-Tools フランク、フォーレ&ドビュッシー : ヴァイオリン・ソナタ
B00005HTL3
ティボー(ジャック) コルトー(アルフレッド) フランク


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

0 件のコメント:

コメントを投稿