2012-05-26

新世界より (貴志 祐介) 〜 千年後の見えざる管理社会を子供の目から描く大作

SF 好きの安宅です。日本の SF 作家・貴志祐介の作品「新世界より」を読みました。2008 年出版。第 29 回日本 SF 大賞受賞。

新世界より(上) (講談社文庫) 新世界より(中) (講談社文庫) 新世界より(下) (講談社文庫)

ストーリー

舞台は今から約千年後の日本。約千年前、人類は呪力 (テレキネシス) 能力を手に入れます。しかし、そこにはマイノリティーな能力者とマジョリティーな一般人との対立が待っていました。二つの陣営は争い合い、多くの犠牲を出し、文明は一部を除き衰退し、そして主人公達の世代が生きる「町」へと集束してゆきました。当たり前の様に呪力が使える世界です。

主人公は渡辺早季。そして、彼女の友達四人: 青沼瞬、朝比奈覚、秋月真理亜、伊東守。5 人は課外授業で「町」の外へ出た時に運命の転機を迎えます。本来の予定よりも遠出して、過去の移動図書館を発見してしまうのです。それはミノシロモドキという名前で「町」では呼ばれ、一般人が触れてはならないモノでした。5 人はミノシロモドキから禁忌とされる情報を知ってしまいます。

その後、外来種のバケネズミが来襲。バケネズミは人間より少し小さなサイズの (つまり巨大な) ネズミで、知性は高く、人語を解し、教養高いバケネズミは人語を話しさえします。彼らは一頭の女王を蟻のように頂き、コロニーを形成。友好的なコロニーは、人間と主従的な関係を築いています。外来種のバケネズミは、早季らの「町」とは全くの無縁。早季と覚は一度は外来種に捕われるも、機種を働かせて脱出。友好コロニーのバケネズミと出会い、協力して外来種を倒します。

ここまでなら、ちょっとした冒険活劇 SF です。物語が面白くなるのは、こういったアクションを通して、呪力とは何か? バケネズミとは何かが分かってからのことです。

一つの苦難が去った後、子供達には大きな問題が残っていました。すなわち、禁忌たるミノシロモドキの情報に触れた事実です。子供達は事実を知ってしまったが故に、少しずつ確信を深めていました。禁忌に触れた子供は処理され、記憶を消されてしまう... 例えば、早季には姉がいたのではないか? 5 人編成の班は、元々 6 人編成ではなかったか?

子供には気がつかない様に作られていた「大人による」子供への管理体制。そしてもう一つ、人間自身が気付いていなかった、「人間による」バケネズミへの管理体制。二重の管理社会に早季が気がつき始めた時、ちょうど社会の歪が形となって人間達を襲い始めます。

しかし、その時。早季が頼る仲間はほとんどいませんでした。仲間うちで最も賢く呪力も強力だった瞬は、既に処理され早季達の記憶にはほんの面影しか残っていません。守は「処理」の予兆を捕えて町を脱出、守を愛する真理亜も守に連れそいます。ほとんど孤立無縁の中、覚と供に苦難に直面する早季。この作品は、子供から大人へと脱却する早季自身の成長の物語であるとともに、社会が抱えていた歴史的暗部を未来史 SF 的に眺める、二つの楽しみを味わうことができます。

あとがき

少学校時代は反社会的だった覚が、グッと頼もしくなる第二部。不安の中で生活し、瞬を喪失する第三部。第四部が激動でしょうか。ふとしたきっかけから「瞬」の記憶が消されていることに気付き、「X (瞬)」の記憶をたぐろうとする胸熱な展開。守と真理亜の喪失。早季の生活に大きな転機が訪れます。そして、大人になった早季と覚が、社会の歪に翻弄されそして過去と対峙する第 5・6 部。

どの章も読み応え満点。意外なところに物語のキーポイントが隠されていたりして、飽きさせません (一部、飽きるなぁ〜と思うところがあるかもしれませんが、それが実は物語のキーになっていたりします)。

時折 (大人達の操作によって) 抜け落ちる記憶におびえながら、「負けない」早季の戦いが胸を打つ。非常に良質な SF です。

新世界より(上) (講談社文庫) 新世界より(中) (講談社文庫) 新世界より(下) (講談社文庫)

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