なお&トラちゃんのお友達つながりで、ストラディヴァリウスのヴァイオリンを聴く機会を得ました。会場はなお&トラちゃん邸。13 時集合。新しい iPad (Wi-Fi + 4G) の予約を朝一で済ませて、お宅に向かいました。
私の到着と前後して、なお&トラちゃんの友人・知人が集まりました。総勢 6 人 (私を含めて)。なお&トラちゃんとヴァイオリニストを含めると、8 人が一般家庭にお邪魔するという事態に。初体面の方ばかりだったので、自己紹介をしながらイベントの開始を待ちました。
ストラディヴァリウス 1725
ストラディヴァリウスを持って来られたのは、黒沢誠登さん。東京フィルハーモニー交響楽団の現役ヴァイオリニストです。東京フィルの公演では普通 (?) のヴァイオリンを使用しており、このようなイベントでストラディヴァリウスを弾くとのことです。
最初は貸与品かと思いました。しかし、話を聞くと個人所有。ストラディヴァリウスを持つ人の多くが、「買おうとして買ったんじゃない。自分の許にストラディヴァリウスがやって来たんだ」と言うそうですが、黒沢さんの場合も同じだったそうです。黒沢さんがチェコに旅行に行った時、たまたま出逢ってしまった。それが、黒沢さんの持つストラディヴァリウス。1725 年製作。
イベントの前後で写真会になってしまったのですが、最初に写真をお見せしましょう。
ストラディヴァリウスを弾く黒沢さん。見た目の通り、とても人懐っこい気さくな方です。
前面から見たストラディヴァリウス。左下が顎を当てる所です。右下に染みの様になっているのは、昔の人の使った痕跡です。昔は、今とは逆にヴァイオリンを構えていたのですね。そのあとが残っているわけです。ヴァイオリンの中央部は黒くなっています。ストラディヴァリウスに有名な「黒いニス」がこれなんだそうです。
背面はとても奇麗な木目が見えます。
ストラディヴァリウスを収納するケース。右手にヴァイオリン。左手に弓が二本入っています。この弓も「弓のストラディヴァリ」と呼ばれるトルテ。見ているだけで、足が震えちゃいます。
ヴァイオリンの中にはラベルが貼ってあって、(おそらく) イタリア語で文章が書かれています。f 字孔から覗き込んで、ようやく見える程度。意味はチンプンカンプンですが、重要なキーワードは分かります。それが上の写真に撮ったフレーズ (見えない方は、写真をクリックして下さい。大きな写真が表示されます)。「Clemona 1725」。クレモナはイタリアの都市で、ストラディヴァリを始めとしてアマティ、ヴァルネリなどの名弦楽器製作者が 18 世紀に集まった町です。つまり、このストラディヴァリウスがクレモナの地で 1725 年に作られた、と書いてあるわけですね。
演奏と黒沢さん
楽器を取り出して、さあ本番。というわけには行きません。ヴァイオリンにも慣らし運転が必要なのです。調弦を行ない、演奏場所を探す黒沢さん。ヴァイオリンを鳴らして、曰く「この壁は鉄が入ってますね」。場所を移動してまたヴァイオリンを弾き、曰く「とても固い壁ですね」。曰く「薄い壁のお家だと反響がねぇ〜」。曰く「楽器も温まらないと音が良く出ないんですよ」。周囲に驚きを振りまきながら、どうやら演奏場所が決まったようです。
軽めに流れるメロディーは、サラサーテのツィゴイネルワイゼン。
ワッ。
この曲はオーケストラがバックに付く曲で、時おりオーケストラの代わりにピアノが伴奏を務めます。しかし、ソロで弾くのを聞くのは初めてです。ええ、もちろんヴァイオリン・ソロ用に適当に曲をはしょってます。演奏部分も曲の前半の穏かな部分です。しかし、いきなりツィゴイネルワイゼンを持って来るとは思いませんでした。
即興風に曲は流れて、エルガーの愛の挨拶、グノーのアヴェ・マリア、etc.
調子が上がって来たところで、ツィゴイネルワイゼンの後半部分。一番盛り上がる所を、ヴァイオリン・ソロで。真近に見るストラディヴァリウス。ツィゴイネルワイゼン。ピッツィカートは弓を持つ右手だけではなく、左手でも行なっています。「初めて知りました。左手でもピッツィカートするんですね!」。すると、ちょこっと解説した後に件のメロディーをアンコール。黒沢さん、気さく過ぎます。カッコイイ!
そろそろ本番に行きましょうか。声が上がって、譜面台登場。
正直、ちょっとびびってました。といのも、クラシックのヴァイオリン・ソロ曲って少ないからです。有名なのはバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ、G 線上のアリア、パガニーニのカプリースくらいでしょうか? それ以外となると、急にマイナーになります。ビーバーのロザリオ・ソナタ終曲「パッサカリア」とか、テレマンの無伴奏ヴァイオリンのための 12 の幻想曲とか、イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタとか。ぶっちゃけ知らない... ^^;
でも、そこは手なれた黒沢さん。有名曲を一撫でした後、知らない曲を披露。皆が何の曲だろう、と ? を飛ばしていると、「今のは即興の曲です」。安堵が広がって、緊張もほぐれた所でポピュラーな曲を次から次へと。中には「高橋秀樹が登場したサスペンスで好きな曲が...」と。後で聞いたら、ビデオに撮って何度も聞き直し譜面起こしをしたそうな。ミスター・ロンリーやテネシー・ワルツ。果ては救急車のサイレンまで。
一曲だけビデオを撮れたので、YouTube にアップしてみました。ボビー・ヴィントンのミスター・ロンリーです。ちょっと頭が切れているのは、私の用意が待に合わなかったせい。ごめんなさい。
私はほんの 1〜2 m ほどの近距離で聴いたのですが、この距離で聞くと弓が弦を擦る音が聞こえるのですね。びっくり。古い SP 録音のノイズの様なサーという音でした。少し離れると聞こえなくなります。黒沢さんによると、ヴァイオリンを聞くには近すぎるとのこと。近いと直接音しか聞こえない。本当は、ホールの壁から返って来た間接音も一緒に聞く。すると、より響きが増すんだそうです。小ホール位いで 30 m 位い離れて聞くのが理想。確かに 1〜2 m といったら、下手するとオーケストラでは指揮者よりも近い位置になりますものね。ヴァイオリンの美味しい所を聞けていないのでしょう。でも、弓が弦を擦る音を聞くなんてのは楽器をやってない人間には未知の領域ですからね。とても良い経験ができました。
一通り弾き終えたら、「キラキラ星」を演奏。
で。
「皆さん、弾いてみませんか?」
いいんですか!?
こんなチャンスはまずないので、弾かせてもらいました。ストラディヴァリウスを!
手に持つヴァイオリンはとても軽く。胴を肩に乗せ。左手でネックを軽く支える感じ。右手にトルテの弓を摘む様に柔らかく持ちます。黒沢さんが、右手をコントロールして弓を引くと、あら不思議。私でもヴァイオリンを鳴らすことができました。ヴァイオリニストの視点も初体験。目の前で、弦の上を弓が左から右へ、右から左へと動きます。すると、「キラキラ星」のメロディーになるんですね。少し視線を先に伸ばすと、黒沢さんがネック付近の弦を押さえて音程をコントロールしています。開放弦で弾いてるんじゃないことを知りました。弓が弦にかかる角度、弓を引く力具合、左手の音程調整。ほとんどを黒沢さんにサポートしてもらってではありますが、ストラディヴァリウスを鳴らすことができました。曲を弾くことができました。感動ですねぇ。胸も震えますが、緊張で腕も震えます (^^)。
グリュミオーとミルシテインがお好き
演奏会は途中で一時中断。皆が持ち寄った菓子でティー・タイム。黒沢さんの面白い話を聞かせてもらいました。私が興味を持ったのは、黒沢さんがお好きというヴァイオリニスト。アルトゥール・グリュミオーとナタン・ミルシテイン。理由は二人ともストラディヴァリウスをトルテで弾いているから、だとか。
特にグリュミオーの美音は魅力ですよね。グリュミオーは 2 丁のストラディヴァリウスを所有していたそうです。1727 年製の「エクス=ジェネラル・デュポン」と製作年不詳の「タイタン」。
で、なお&トラちゃんは素晴らしいオーディオを持っているので... グリュミオーの演奏は聞けませんか? 黒沢さんから逆リクエスト。不幸にもグリュミオーの CD/LP はなかったんですけどね。残念。
グリュミオーじゃありませんけど、と前置きを置いて、オーディオ・ルームへ移動。オーディオで音楽を聴くの会。最初にかかったのはヴィエニャフスキのヴァイオリン協奏曲。一聴。黒沢さんは「グァルネリの音ですね」。わ、分かる人には分かるんでねぇ。
ティー・タイム中にハイフェッツがストラディヴァリウスを持っていた話が出ていたので、合い間を見つけて質問。「何故、ハイフェッツはストラディヴァリウスを使わずにグァルネリを弾いたんですか?」。まあ、理由はハイフェッツ自身に聞かないと分からないわけですが... 黒沢さんの答えは、「楽器が人を選ぶ。ストラディヴァリウスは昔のイタリア人の身長 (今の日本人の平均と同じ位い?) 向け。グァルネリは大きな人向け。ハイフェッツは体が大きかったから、グァルネリが合ったんでしょう」。フムフム。勉強になります。付け加える様に、「ストラディヴァリウスもグァルネルも両方弾ける人もいる。アッカルドなんかがそう」。
気がつくとアッカルドの LP がかかっていました。
オーディオを聞いた後、黒沢さんのアンコールとストラディヴァリウスの写真会でイベントはお開きとなりました。
蛇足 1
蛇足 2
写真会の目玉はストラディヴァリウスの中にあるラベル。「Clemona 1725」の文字でした。細い隙間から一行だけピンポイントで撮影しようというのですから大変です。なお&トラちゃんは、本格的なデジカメを持ち出して来ました。でも、上手くピントが合わない。明かりが足りない。別の文字を撮ってしまう。しぶしぶ敗北。。。
私も iPhone4 を持って撮影にチャレンジ。1 回? 2 回? で成功。それが上の写真です。皆さんからも、上手く撮れたねぇ、とお言葉を頂きました。
これがなお&トラちゃんの心に火を点けた。フラッシュでは埒が明かないと小型の電灯を持って来て、ヴァイオリンを持っていてはブレると椅子にそっとストラディヴァリウスを横たえ、ライトの位置とヴァイオリンの角度を何度も変えて、ピントがずれて別の場所を撮ってもめげずにリピート、リピート、リピート。さながら、初孫を親族が見守る様相を呈して、ついに撮影に成功。カメラの実力は iPhone なんかに負けないぞ。高画質な「Clemona 1725」の文字はなお&トラちゃんのブログで見ることができます。
撮影成功後、黒沢さんがサラリ。「私は動画を撮って、いい画を切り出しちゃいます」。
あ〜〜〜
ええと。黒沢誠登さん。素晴らしい演奏をありがとうございます!!