J. S. Bach の名曲「平均律クラヴィーア曲集」。この曲の名盤として 30 年以上君臨し続けている CD があります。それはリヒテル (Sviatoslav Richter) が 1973 年に録音したものです。いわゆる BMG 盤です。
バッハというとお固いイメージがあります。特に平均律クラヴィーア曲集ともなると、バロック・バロックした曲です。もともとピアノが発明される前の曲なので、それも手伝って固〜いイメージが強くなっているのかもしれません。
ところが、リヒテルの弾く平均律クラヴィーアは驚くほどにロマンティック! ここまでしていいのかしら? と疑ってしまう程です。1973 年以前にリヒテルほどにロマンティックに平均律クラヴィーアを弾いたのはギーゼキングだけかもしれません。聞いていると、とにかく恍惚にひたれる名演なのですね。
インスブルック・ライヴ
そんなリヒテルの平均律クラヴィーアが、実はもう一組存在することを「それでもクラシックは死なない (松本 大輔)」で知りました。
詳しく調べてあるので、随分長いですが引用してみます。
インスブルック・ライヴ。BMG スタジオ盤とほぼ同時期の録音だが、数か月あと。この録音は、一度だけ国内盤でリリースされた。しかもわずか 3 日間だけ。
1997 年末にビクターから「リヒテルの遺産」として数タイトルのアルバムが発売になった。そのなかにこのインスブルック・ライヴの『平均律』全曲 4 枚組みセットも含まれていた。発売前から大きな話題になり、多くのファンがその登場を待っていた。
……ところが。
発売してすぐに、ビクターから「回収依頼」の通達がきた。理由は不明だが何らかのトラブルですぐに回収してほしいという。編集ミスとかではない。何か権利上の問題らしかった。いずれにしても、この稀代の名盤は発売からわずか数日で店頭から一斉に姿を消した。
しかしすでに雑誌などには批評や広告が載り、とくに「レコ芸」では武田・濱田両氏推薦の特選となり、また幸運にも入手することができた人から絶賛の声があがり、『リヒテル・インスブルック・ライヴ』を求める声は当然高まった。(中略)
演奏はいかにもライヴらしく、BMG 盤をさらにロマンティックに激しく、甘くしたもの。すべてが BMG 盤を凌駕しているとはいわないが、スタジオ盤にはない楽しさ、わくわく感がある。前時代的なヴィルトゥオーゾ・スタイルのロマンティック・バッハ、という性格はこの盤でさらに推し進められている。
また BMG 盤は教会で録音で収録したものらしく (注: BMG 盤はザルツブルクのクレスハイム宮殿、当ライヴ盤はインスブルックのヴィルテン修道院付属教会で録音)、もわーんとした音質で、それが幻想的という見方もあるが、「ぼやけてていやだ」という見方もある。しかし、このライヴ盤は BMG 盤よりクリア。
(後略)
その幻の CD が、ようやく HMV や Tower Records で買えるようになりました。
確かに音は BMG 盤よりもクリアー。最初の曲を聞いて、おやそれほど絶賛するほどのものかしらん? と首をひねりましたが、曲が進むごとにテンションの上がること。なるほど、これは名盤だと納得しました。そして、曲によっては BMG 盤を好むものがあるのも事実。でも、どちらか一枚を持つというなら、ライヴ盤の方が楽しいかもしれません。
このインスブルック・ライヴを買ったおかげで、普段はほとんど聞かない平均律 (だって長いんですもの) を聞く機会が増えました。調子に乗って、トゥーレックとエドヴィン・フィッシャーの平均律クラヴィーアも買ってしまったのですが、それはまた別のエントリーで。
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