週刊少年サンデーの連載「トラウマイスタ」(中山敦志)が、今週号 (2009 年 28 号) で最終回を迎えました。
トラウマイスタの大筋は、主人公らがアートマンという能力 (ジョジョでいう所のスタンド) で敵と対抗していくというバトルもの。能力の獲得のためには、自分のトラウマを乗り越える必要があります (それで題名が「トラウマ」イスターというわけ)。
最初は少し絵が個性的なバトル・マンガでした。でも最後のバトルの前夜。好きな人に告白をした直後、彼女が爆死させられ、なし崩し的に最強の敵と戦闘。ここからの展開がすごかった。トラウマをバネにするマンガだけに、ここで最強の敵といい勝負をするのかと思えば、齒牙にかけられることもなく完敗。ジャンプならここから修行が始まるんでしょうが、修行なし。主人公はそのまま敵地に突入。仲間は何も知らずに、置いてきぼり。敵の表の顔は大企業の社長、というよくあるパターン。で、敵の会社に乗り込んで大暴れ。かけつけたマスコミに映る主人公は、もうテロリスト。ここまでやるか! と。しびれました。久しぶりに熱いマンガでした。
最終回
最終回は平和になった主人公達の日常が描かれました。そこで出てきたのが、William Blake の On Another's Sorrow という詩です (サンデーには Willam Blake と誤記されています)。少し心を打たれたので調べてみました。
William Blake (英) は 1757 年生まれの画家、詩人、銅版画職人。On Another's Sorrow は、1789 年出版の The Songs of Innocence (無垢の歌) に収録された詩です。詳細は Wikipedia をどうぞ。
銅版画職人だったブレイクは1787年頃、独自のレリーフ・エッチングの手法を開発。それを用いた彩色印刷(illuminated printing)により、1789年、詩集『無垢のうた』(Songs of Innocence)を発行した。これはブレイクの彩色印刷による詩作品の最初のものである。その後、詩集『経験のうた』(Songs of Experience)の広告が1793年に出たが、結局発行されることはなかった。『無垢のうた』と『経験のうた』が合本となり、ひとつの詩集として1794年に発行されたのが『無垢と経験のうた』である。
無垢と経験のうた - Wikipedia より引用
この On Another's Sorrow の日本語訳全文は青空文庫で読むことができます。
オリジナルの英語版は Google Books 等で読むことができます。せっかくなので、こちらに転載します:
Can I see another's woe,
And not be in sorrow too?
Can I see another's grief,
And not seek for kind relief?
Can I see a falling tear,
And not feel my sorrow's share?
Can a father see his child
Weep, nor be with sorrow filled?
Can a mother sit and hear
An infant groan, an infant fear?
No, no! never can it be!
Never, never can it be!
And can He who smiles on all
Hear the wren with sorrows small,
Hear the small bird's grief and care,
Hear the woes that infants bear --
And not sit beside the nest,
Pouring pity in their breast,
And not sit the cradle near,
Weeping tear on infant's tear?
And not sit both night and day,
Wiping all our tear away?
O no! never can it be!
Never, never can it be!
He doth give His joy to all:
He becomes an infant small,
He becomes a man of woe,
He doth feel the sorrow too.
Think not thou canst sigh a sigh,
And thy Maker is not by:
Think not thou canst weep a tear,
And thy Maker is not near.
O He gives to us His joy,
That our grief He may destroy:
Till our grief is fled and gone
He doth sit by us and moan.
蛇足ですが、トラウマイスタの最後の 3 ページに書いてある部分「トラウマは逃げるためにあるのじゃなく、乗り越えるためにある! 乗り越えるための力こそ勇気なんだ!! その勇気の翼ひとつで、どこにでも飛んでいけるさ。」は On another's sorrow の一節ではありません。