映画「プロメテウス」を観てきました。
以下、ネタバレを含む感想です。
ストーリー
オープニング。去りゆく宇宙船。白い巨人が黒い液体を摂取。直後、体が崩壊して滝にのまれる。2080 年代、考古学者エリザベス・ショウとチャーリー・ホロウェイは過去の遺跡に星図を発見。ショウらは壁画に描かれた巨人をエンジニアと命名。
2093 年、衛星 LV-223 に到着。人工的な直接を発見して着陸。ホロウェイは調査チームを率いて人工構造物に乗り込む。しかし、人影はなくエンジニアの死体だけが残っていた。失意のホロウェイ。アンドロイドのデイヴィッドは「黒い液体」を採取。生物学者と地質学者が別行動に出る。嵐の到来を機に船へ戻る。別行動の 2 人は置いてきぼり。
デイヴィッド、黒い液体をワインに混入してホロウェイに飲ませる。ホロウェイとショウ、セックス。
翌日、迷子の 2 人を探しに再探検。生物学者の死体を発見。デイヴィッドはエンジニアの操縦室を発見。一人のエンジニア(白い巨人)が冷凍休眠されているのを見つける。ホロウェイの容体が悪化。船へ戻るも、リーダーのヴィッカーズによりホロウェイは焼き殺される。ショウ気絶。目が覚めると、デイヴィッドから妊娠三か月と告げられる。ショウは自動手術機で体内の異物を摘出。それはイカ型の生物だった。生物を手術機の中に残して、ショウは逃げる。その先で、計画のオーナーであるウェイランドと出会う。同時刻、地質学者が戻り暴走。メンバーを殺害。船長により焼き殺される。
船長はショウに、ここはエンジニアの本星ではなく生物兵器の試験場ではないか? と疑問を打ち明ける。
ショウはウェイランド、デイヴィッドとともに冷凍休眠されたエンジニアの目を覚ましに行く。目覚めたエンジニアと対話しようとしたとたん、デイヴィッドは首をもがれ、ウェイランドは殺害される。ショウは逃走。エンジニアは構造物内の宇宙船を起動して宇宙へ飛び立とうとする。船長は船を特攻させ、宇宙船を墜落させる。ヴィッカーズは専用モジュールを切り離して脱出。モジュールから出たところ、倒れてきた宇宙船の下敷きとなる。
ショウはモジュールに入り酸素を補給。壊れた宇宙船から追ってきたエンジニアが迫る。ショウは手術室を開放して、イカ型生物とエンジニアを闘わせ、その隙に逃げる。その後デイヴィッドを回収、別の宇宙船でエンジニアの母星を目指す。
エンジニアの胸から、エイリアンが現れる。
謎
全体的に良いストーリーだったと思います。謎は謎のまま残したストーリー展開は、次作への繋ぎになっていました。しかし、いくつか不自然な行動と謎が目立ち、映画を楽しむことができませんでした。
以下、謎と自分なりの考えです。
オープニングの白い巨人はなに?
いつ? どこ? 分かりません。そして彼の行動の意味... 不明です。
彼は反逆者で宇宙船から追放されたのでしょうか? それで、自殺用に黒い液体を渡されたのでしょうか? もしかしたら、地球へ黒い液体をまくことに反対したのかもしれません。
宇宙船のシルエットが、LV-223 にあった宇宙船と違うのも気になります。船の種類が違うのでしょうか? (巡洋艦と空母のように) 船の建造時期が違うのでしょうか? それとも文化が違うのでしょうか? (エンジニアの星が単一文化とは誰も言ってませんしね)
オープニングから謎だらけですが、この「謎」については本編で一つも触れません。続編への伏線?
何故、星座は LV-223 を指した?
ショウとホロウェイによって発見された星座から、(おそらく) 他の研究者たちによる研究を経て、星座の指す先が LV-223 だと判明しました。しかし、そこはエンジニアの生物兵器実験の星でした。何故、エンジニアは LV-223 を星座に残したのでしょう? 当時の人類には恒星間飛行技術もないのに。
少し、時代について考えてみます。ショウとホロウェイが見つけた最古の星座は 3 万 5 千年前のものです。これは「最古」であって、もっと新しい星座もあります。映画の中ではエジプト、メソポタミア etc. の古代遺跡の中で同様の星座が発見されたと言っています。古代エジプトは紀元前 3,000 年頃、古代メソポタミア最初の文明であるシュメール文明は紀元前 9,000 年頃の時代です。3 万 5 代年という数字がピックアップされていますが、少くともエンジニアは 4,000 年前の人類と会っていたことが類推できます。しかし、1,000 年には生物兵器の実験に使われていたことも間違いなさそうです (千年前とするのは、ショウの時代 2093 年から数えて二千年前にエンジニアが死んでいたため)。
35,000 年から 4000 年前まで、ずっと同じ星を指していたのは何故か? 生物兵器開発の星だったという理由は弱いように思います。4000 年前から 1000 年前の間にエンジニアの間で何かがあったのでしょうか? 例えば、本々 LV-223 がエンジニアの本星で途中移住することになったとか、元は LV-223 はエンジニアの星系の中でもハブ的な重要拠点な星だったとか、異星人とのファースト・コンタクト用の星だったとか。そして、何かがあって星の目的が変わってしまったとか。
単純に LV-223 が「最初から生物兵器開発用の星」だったと断ずるには証拠不十分。この謎は解かれるのでしょうか?
構造物前の人工的直線はなに?
エンジニアの宇宙船を見ても、非常に技術が高いことが分かります。エンジニアの船は滑走路が要りません。
構造物の前にあった人工的な直線は何なのでしょう? 資材運搬用の道? う〜ん、分かりません。
そんなに急いでどうする?
宇宙船プロメテウスが人工構造物の前に着陸して、ホロウェイはすぐに調査開始を進言します。船は長旅を終えたばかり。船にも人にも休憩を与えたいところ。しかも日没まで 6 時間を切っています。
後に自動飛行して構造物内をマッピングするガジェットが登場します。
異星の未知の構造物を前に、地図もなしで調査しようとは...
ウェイランド氏も一日や一週間、冷凍睡眠に入っていても良いはず。そんなに時間が押しているわけでもないのに。性急過ぎやしませんか? 時間をかけて準備をしても、映画のシナリオ的には問題がないはず。むしろ、調査隊らしさが強く出ると思うのですが... むしろ、本当に学者か? と思うほどの素人っぽさを見せつけてくれます。うかれすぎです。
何故、ヘルメットを脱ぐ?
構造物に入って、構造物内がテラフォーミングされていることが分かります。そしてヘルメットを脱ぐホロウェイ。残るメンバーもヘルメットを脱ぎます。
ちょっと待って下さい。地球であっても洞窟の探険にはヘルメットは必須。それを、異星の未知の構造物の中で、何やっているんですか? 物が落ちてきたらどうします? 空気に致死性のウィルスがいたらどうします? 天丼から落ちてくる水滴が安全だと保証できますか? 誰か止めようよ。
チームワークを乱してどうする?
地質学者が怒って、生物学者を巻き込みチームから離散します。そして迷子になります。きれいなまでの死亡フラグです。
このチームって、ウェイランド社が選んだ研究者選抜チームなのですよね? 科学者は自分勝手な点が多いのは認めます。しかし、地球から遠く離れた星での研究生活。それなりにストレスもかかります。当然、チーム選定に当たってストレス・テストもしたことでしょう。なのに何故、いきなり不満爆発なのですか? 地質学者にとって「構造物」に興味がないのは分かりますが、日を置けば構造物周辺の地質を研究することにもなったでしょう。どんな契約内容で地質学者と結んだのか興味津々です。
LV-233 到着時の会議で初めて異星人の存在を明かす程の秘密プロジェクトでしたから、もしかして、地球出発の際は未知の星の地質研究と言われていたのかもしれませんね。対異星人用の研究者メンバーばかり選ぶと、周りにバレるかもしれないので、本来の目的を隠蔽をするために「必要ない」地質学者等もメンバーに加えたのかも。そして、自分は単なる「飾り」であったことに気づいて地質学者は怒ったのかな?
でも、怒るにしてもその矛先はショウ達ではなく (船に残ってる) ヴィッカーズに言うべきだと思いますよ。初めての場所で単独行動は... ほら、ね。
何故、エンジニアは全滅した?
「黒い液体」が致死的な兵器であることは映画を観ていれば分かります。当然、研究していたエンジニア達も気をつけていたことでしょう。それなのに何故、全員死んでしまったのか?
ここで、「黒い液体」の効果について見てみます。「黒い液体」を摂取した人物は DNA を破壊されて死亡。死亡前に女性と性交すると、女性を母体にフェイスハガーが短期間で誕生・成長。フェイスハガーが他の生物に卵を産みつける。生物内で卵は孵化、エイリアンとなって宿主の体を喰いやぶる。
随分と手順がかかっていますね。まるで、よく出来た暗殺兵器です。しかし、「黒い液体」を入れた容器が大量にあったことから、エイリアンの誕生はあり得ません。なぜなら、「黒い液体」を本来の用途として大量散布した場合、フェイスハガーが生まれる前に人が全滅するからです。なので、フェイスハガー及びエイリアンの誕生はエンジニアも予想していなかった副産物ではないかと思うのです。
二千年前のこの星で、もしかしたらショウとホロウェイに起こったことと同じ事件があったのかもしれません。不用意に「黒い液体」に感染し、同じ様な流れを経てエイリアンが誕生。エイリアン対策など頭になかった化学・生物系研究者のエンジニアはあえなく全滅。エンジニアが全滅した後のエイリアンは...? もしかしたら、蛇の様な姿になって二千年を生きていたのかもしれません。
蛇足ながら、映画「エイリアン」では卵からいきなりフェイスハガーが生まれています。「プロメテウス」の様に「黒い液体」「性交渉」の 2 プロセスがカットされて、「進化」のほどを感じます。エンジニアが事件後に「黒い液体」を改良したのか? エイリアン自身が進化したのか? 興味深い謎です。
エンジニアと人間の DNA が一致した?
同じ人類の DNA を持っていても、体の大きな人・小さな人、様々です。しかし、エンジニアは明らかに人間より巨大で、膂力も桁違いです。クロマニヨン人とネアンデルタール人くらいの遺伝子的な違いはあるんじゃないかしらん。どういう判定基準で「人類」と判じたのか、気になるところです。
さて、エンジニアが人類と同じ DNA を持っていることで話が難しくなりました。今の人類の DNA は進化論で説明できるもので、大雑把に言うと地球上で DNA を持つ生物と人類の DNA の差はほとんどありません。しかしエンジニアは人と判じられています。異星人と地球生命体とで DNA がほぼ同じというのはありえないことです。この答えを考えてみます:
- どの様な星であっても、進化の過程で同様の DNA となる
- エンジニアの発祥は地球である
- エンジニアは、自分達の DNA をもとにして地球の原初生命体を作った
私が思いつくのはこんな所ですが、肩すかしな回答が待っていそうで恐いです。
デイヴィッドよ、人体実験はほどほどに
エンジニアが人の DNA と同じと知ったデイヴィッド。構造物内で採取した「黒い液体」をホロウェイの飲むワインに混ぜます。人体実験です! 結果、ホロウェイは死ぬわけですが... 私が気にかけているのはそういうことではありません。
未知の星の未知の液体。しかも、何かしらのトラブルが起きてエンジニア全滅となったホログラムを見た後で、「黒い液体」をいきなり人間に与えるのはいかがなものか。今回はホロウェイの死亡と、ショウのフェイスハガー受胎で事はすみました。しかし、もっと危険な結果を生む可能性もあったのです。例えば、エボラ熱の様に空気感染でかつ致死率 99% のウィルスが出来たかもしれません。そしたら、調査チーム全滅ですよ。ウェイランド氏も死にますよ。ハルクみたいになっちゃったら、デイヴィッドですら壊されますよ。
先に「エイリアンが生まれるよ」という暗黙の了解があればこその行動と言えますが、そういう物語の作り方はいかがなものか。
ヴィッカーズのホロウェイ殺害は非道?
非情なリーダー・ヴィッカーズ。死にかけのホロウェイを火炎放射器で殺害します。でも、未知の惑星で感染症らしい症状を出しているクルーに対して、リーダーのこの対応は悪くないと思います。どう考えても、宇宙船には医療用の設備はありません。せいぜい、あるのは自動手術機程度。未知の病気を持ち込まれたら、クルー全滅の危険があります。そういう意味でも、ホロウェイが構造物の中でヘルメットを脱ぐ行為は (結果的には問題なかったとはいえ)、あまりに軽率だったと思います。
ちなみに、「空気感染なら他のメンバーも感染している」とショウが言っていますが、ヴィッカーズさん、その後のメディカル・チェックはしませんでしたね。ちょっと片手落ちな感じ。
自動手術機は何故男性専用?
地球でも数台しかないという自動手術機。体内の異物を帝王切開しようとしたショウが、リクエストを出すと「男性用です」と答えられて困ったエピソードは笑いを誘ったもの。
さて、何故、男性用の自動手術機があったのでしょう。クルーの中には女性でも重要な地位にあるヴィッカーズ、ショウがいます。あと何人か女性のクルーもいましたね。女性の手術の可能性も高いと思います。ヴィッカーズは地球でも数台 (12 台でしたっけ?) と言っていましたが、それは最新モデルの自動手術機のことでしょう。これが初代 iPhone の様に画期的な「最初」の自動手術機なら勘違いになりますが、おそらく前のモデルがあったはずです。男女共用のものが。もしかしたら、まだ男女共用の自動手術機はないのかもしれません。それなら、男性用・女性用の二機種を導入すれば良かったのではないか?
ここで思い出して欲しいのは、この自動手術機が専用モジュールの中にあったこと。専用モジュールと言えば聞こえは良いですが、脱出挺ですよね。本来ならクルー全員に平等に使える脱出挺だと思いますが、今回の宇宙船にとって VIP はウェイランド氏です。最悪に備えて、ウェイランド氏のために自動手術機を手配をした、というのが真相ではないでしょうか?
ウェイランド氏は何故一緒に来た?
地球で冷凍睡眠に入って、50 年位い待ってれば良かったのでは?
恒星間飛行はリスクが高いし、ショウ氏の仮説が正しいとは限らないし、今回の調査が成功するかどうか分からないし。不安要素はいっぱい。権力者として、地球で冷凍睡眠に入っていられない理由でもあったのかしらん。
あとがき
作り手が「謎」は「謎」のまま残そうと思った部分は、ちゃんと効果を上げていたと思います。映画「エイリアン」とのリンクもニヤリとさせられました。面白い映画でした。
ただ、細部のキズが気になる映画でもありました。不自然な行動、不可解な行動、作り手の検証不足か? と思われる設定 etc. スター・トレックのような隙のない映画を作って欲しかったです。
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