久しぶりにニヤニヤできる少女マンガを買いました。「それでも世界は美しい」。作者は椎名 橙。
それでも世界は美しい 1 (花とゆめCOMICS)
椎名橙
白泉社 2011-12-20
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第一巻には三編を収録。花とゆめコミックスで発売されている通り、「花とゆめ」で読み切りとして発表されました。収録データを読むと、一作目が平成 21 年 7 号(ふろく?)、二作目が同年 13 号ふろく、三作目が平成 23 年 19 号掲載とのこと。二作目と三作目の間に二年の間が空いていますね。現在は、2012 年 2 月号から集中連載が始まっているとのこと。
あらずじと感想
世界を征服した「晴れの大国」の太陽王・リヴィウスが、余は少々太陽には飽きたのだ
と言ったのが事の発端。東方の鎖国公国「雨の公国」(実体はお金がないだけ...) の王族が雨を降らせることを聞きつけ、王女を差し出す代わりに自治を与えると申し出る。そこで送り出されることになったのが第四王女のニケ。
城に着いて太陽王に謁見してみれば、自分よりも年下の少年王。母親が暗殺されたことをきっかけに、心を閉ざし、三年で世界を征服したという。そんな彼の妻となり、少年王の渇いた心に「それでも世界は美しい」と伝えるラブコメ (?) が本作品の大まかなストーリーです。
まず、2 つのベースになる設定がしっかりしています。一つは、「晴れの大国」というだけあって「雨が降ったのを見たことがない」こと。もう一つは「最新技術で生活用水等の確保に問題はない」という設定。まあ、そうじゃないと、雨なしではすぐに国が亡びますもんね。
で、本作で素晴らしいのが、雨を肯定的に受け入れるストーリー。普通、雨と言えば否定的に考えるものです。(マンガではなく) 日常生活では、傘を持たなきゃいけないし、下手に濡れれば風邪をひくしで嫌なもの。でも、生活のうえで雨って欠かせないものなのですよね。雨が降らないと農作物は育たないし、生活用水にも支障が出ます。
「それでも世界は美しい」では、そういう「雨」の重要度を教訓っぽさを全く見せずに「美しい」と表現しています。これって、世界観構築がちゃんとしている上で、ストーリーの運びが自然でないと出来ないこと。雨を望む人々を、読者に当たり前のように提示している。上手いですねぇ。
そして、もっと重要なのが心の在り様。アメフラシの師匠の言葉:
私達が潤すのは大地ばかりではない
私達が真に滴を届けるべくは人の心の奥、そのまた奥、聖域と呼ばれる場所
抱えた重荷、帰らぬ人、そういう物をしまっておく、最も脆く渇きやすい心の神殿
というわけで、読むべきはニケの奔放な性格とアメフラシが、リヴィウスの心を溶かしてゆくところ。第一話で、最初は「道具」としか見ていなかったニケに心を開いたリヴィウスが、第二話では他国へも「ニケ」の立場を明確にしたい... なんて考えるあたりニヤニヤしちゃいます。そんな心を知って、式展でアメフラシを行なうニケ。アメフラシは私事で使わないんじゃなかったのか? という問いに、「あいつらの事はついでだ。私は—」「わかってるさ。わかってる。ありがとな」。もう、なんて言うか。ああ、良いなぁ〜。
連載も始まり、二巻目も出てくれそうな様子。これからの進展が大いに楽しみです。