昨日、友達からこんなメールが届きました。
神童って知ってる? 映画見て原作漫画買っちゃったよ。その影響でベートーヴェンの四大ピアノソナタの入った CD 買おうかなと思うんだけど。出来たらレビューヨロシク。
中略
ドイツ人 (名前を忘れた) の演奏が有名らしいね
フムフム。レビューを頼まれれば、嫌とは言えませんね! 生半可な知識しか持ち合わせていませんが、精一杯エントリーを書いてみます。
ベートーヴェンの四大ピアノ・ソナタ
まず、「ベートーヴェンの四大ピアノ・ソナタ」について。普通、ピアノ・ソナタ 8 番「悲槍」、同 14 番「月光」・同 23 番「熱情」の三作品をもってベートーヴェンの三大ピアノ・ソナタと呼びます。何故この三曲を三大ピアノ・ソナタと呼ぶのか。その理由は私も知りません。
LP 盤では、三大ピアノ・ソナタを収録すると収録時間が一杯になったものですが、CD になってもう一曲を加える余裕が出てきました。どうやら、CD が出る頃から三大ピアノ・ソナタにもう一曲を加えて、四大ピアノ・ソナタと呼ぶことが多くなったようです (三大ピアノ・ソナタほどにはメジャーな呼び方ではないようですけど...)。ここで、三大ピアノ・ソナタに次ぐメジャーな作品として加えられるようになったのが、ピアノ・ソナタ 21 番「ワルトシュタイン」です。
バックハウスとケンプ
ベートーヴェンのピアノ・ソナタを得意にするピアニストは、沢山います。特に LP 時代には、ヴィルヘルム・バックハウスとヴィルヘルム・ケンプの二人がベートーヴェンの弾きとして有名だったようです。この二人はドイツ人ですので、友人の云う「名前を忘れたドイツ人」というのは彼らのどちらか (もしくは二人とも) ではないかと思います。私は、バックハウスにはドイツ人らしい固くて模範的な演奏、ケンプには温かくて人情味のある演奏という印象を持っています。
ちなみに、私はバックハウスの CD を初めて聴いた時、「世間が言うほど凄い演奏ではないな」と思いました。悪くはないのですが、強烈な個性を感じなかったのですね。しかし、色々な個性的な演奏を聴いてからバックハウスの演奏を聴いてみると、それは誤りだと分かりました。彼の模範的な演奏にはしっかりとした芯があって、何より奇を衒わない絶対的な安定があると感じました。ピアニストがわざわざ個性を出さなくても、ベートーヴェンの曲は素晴らしかったんだ、とバックハウスの演奏は教えてくれました。だからこそ、バックハウスの演奏は名演と呼ばれているのだ、と今は思っています。
一方、ケンプの演奏は、曲の盛り上がり所で演奏者の気持ちも燃焼しているのが感じ取れる演奏です。ケンプの演奏を聴いた後にバックハウスの演奏を聴くと、バックハウスの演奏が冷たく感じるものです。それは二人のうちどちらが優れているというのではなく、二人の個性の違いなのだと思います。
ピアノ・ソナタ全集
ベートーヴェンのピアノ・ソナタは、四大ピアノ・ソナタだけが傑作ではありません。
四大ピアノ・ソナタはベートーヴェンの初期・中期の良作を選んだもので、後期の作品からはピアノ・ソナタの 30 番、31 番、32 番を選んで「後期 3 大ピアノ・ソナタ」と呼ぶことがあります。
タイトル (標題) の付いた作品では、ピアノ・ソナタ 16 番「田園」、同 17 番「テンペスト」、同 26 番「告別」、同 29 番「ハンマークラヴィーア」も人気の高い作品です。また、タイトルの付かない作品では、私はピアノ・ソナタ 4 番、12 番、18 番を好んで聴きます。ピアノ・ソナタ 19 番・20 番もタイトルは付いていませんが、ソナチネ (小さなソナタ) として紹介されることの多い、愛らしい一品です。
このように、ベートーヴェンのピアノ・ソナタは名曲の宝庫です。なので、せっかくベートーヴェンのピアノ・ソナタに興味を持ったのなら、4 大ピアノ・ソナタだけを聴くというのは勿体ないです。ここは、全集ものを買ってみてはいかがでしょうか。最近は、クラシック音楽の CD も格安になり、HMV では 3000 円前後でピアノ・ソナタ全集が手に入るようになりました。手軽に入手できる全集で入門して、気に入った曲を有名なピアニストの CD で補完するというのが私のオススメです。
最近の激安ボックスには、こんなのがあります。
また、財布に余裕があるなら、最初からバックハウスの全集を買ってしまうのも一つの手かもしれません。
ベートーヴェン - ピアノ・ソナタ全集 バックハウス - HMV
最後に、バックハウスとケンプ以外のベートーヴェン弾きを、名前だけ挙げておきましょう。
- アルトゥール・シュナーベル (録音が古い。世界で最初にピアノ・ソナタ全集を録音)
- イーヴ・ナット (フランス人で最初にピアノ・ソナタ全曲を録音)
- ヴァルター・ギーゼキング (新即物主義。全集録音中に他界。全集は未完)
- エミール・ギレリス (強靱なタッチで有名。この人も全集は未完)
- フリードリッヒ・グルダ (ジャズもこなす才人)
- スヴャトラフ・リヒテル (数曲しか録音していないけれど、どれも名演)
- アルフレッド・ブレンデル (3 回の全曲録音あり)
- マウリッツィオ・ポリーニ (最新の録音)