あれは 2000 年のクリスマス前のことでした。合唱好きな友人が、買いたい CD があるということで、一緒に HMV に行くことになりました。テレビか何かでかかっていた曲で、グロ〜リア〜
と歌う部分がとても素晴らしい。クリスマスによくかかる曲で、今なら HMV で手に入るはずだ。彼に言う通り、店内でその曲がかかっていました。彼は CD を買った後、この曲の名前は「あめにはさかえ」というのだ。と教えてくれました。
当時、その曲に興味を持っていなかった私は、彼の買った CD もチェックせず、そのうち彼とは音信がとだえてしまいました。しかし、年が経つごとに、私の頭の中ではあの「グロ〜リア〜」のフレーズが頭から離れず、今年に入るとその曲が欲しくてたまらなくなりました。しかし、メロディーだけしか分からない曲を探すのがどれほど困難なことか! 一度でも試みたことがある方なら、その難しさをご存じのことでしょう。
一番簡単な方法は、身近に居る合唱好き (or クラシック好き) にメロディーを歌って聞かせ、CD を借してもらうことでしょう。しかし、不幸なことに私の周りにはクラシック好きがほとんどいません。そこで、思い出したのが彼の言葉です。
この曲の名前は「あめにはさかえ」というのだ。
思えば、これが全ての間違いだったとしか思えません。というのも、彼の言ったことは間違っていたからです。
ともかく、曲名を思い出したからには自分の CD コレクションの中に既にあるのではと調べてみました。すると、「ウィーン少年合唱団ベスト」に「天には栄え〈聞けや歌声〉(メンデルスゾーン) Hark! The herald angels sing」とあるではないですか。きっとこれは、彼の言っていた「あめにはさかえ」に違いない。期待を胸に CD をプレーヤーにかけました... が、「グロ〜リア〜」のメロディーは出てきません。
さて、「天には栄え」は賛美歌です。つまり、テキストがあって、それに曲がついています。クラシックの世界には一つのテキストに複数の曲がついているものはいくらでもあります。シューベルトとウェルナーの作曲で有名な「野ばら」、同じくシューベルトとグノーの作曲で有名な「アヴェ・マリア」、他にも「レクイエム」を始めとする宗教曲のテキストは基本的に同じです。そして、「天には栄え」もそうした曲の一つなのでは? と考えました。しかし、メンデルスゾーン以外で「天には栄え」の曲を書いた人はいないのですね...
やがて、曲名が間違っているんじゃないかと思えてきました。「あめにはさかえ」ではなくて、「あめにぬれても」では? (冗談)。
もう、音楽に詳しい人に聞くしかない。そういうわけで、京都は三条の「十字屋」という CD 屋さんで店員をつかまえて聞きました。
ぼく: すいません。クラシック詳しいですか? 店員: はい。 ぼく: メロディーだけ分かる曲があるんですが、曲名が分からないんです。 ぼく: 歌うんで、曲名分かりますかね? 店員: ... ぼく: アー、アアアアー。アアアアー、アアア、グロ〜リア〜。 店員: 有名な曲ですね。少々お待ち下さい。 ... 店員さん、下のフロアの楽譜売り場から楽譜を持ってきて ... 店員: このメロディーですね。 ぼく: すいません、五線譜が読めないんです。 ... 五線譜をなぞりながら ... 店員: アー、アアアアー。アアアアー、アアア、グロ〜リア〜。 ぼく: ああ、そうです。何て曲ですか? 店員: 「あら野の果てに」です。
「あめにはさかえ」と全然違うじゃないか。
店員さん曰く、クリスマス・シーズンなら試聴もできて CD も揃っていたけれど、もうシーズンは終わってしまった (私が店に行ったのは 1 月 29 日) らしい。CD を探したけれど、「荒ら野の果てに」の入った CD はなかったので、今年のクリスマスにリベンジを誓ってその日は家へ...
事態が進展したのは、一か月程前。ブックオフで 250 円の CD を漁って聴いていたら、「グロ〜リア〜♪」のメロディーが流れてくるではありません。CD は「MARIAH CAREY * MERRY CHRISTMAS」で、9 曲目「Hark! The Herald Angels Sing / Gloria (In Excelsis Dea)」。ん、前半の曲名は、日本語題名「天には栄え」。そうです、「天には栄え」と「グローリア (荒ら野の果てに)」のメドレーになっていたのです。
思わぬことで、自分も気づかぬうちに、目当ての CD が手に入りました。きっと彼が手に入れた CD も、マライア・キャリーのクリスマス・アルバムだったのでしょう。そして、誤って曲名を覚えたに違いありません。長年の謎が、解けた気がします。
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