Musical Baton で挙げた「よく聞く、または特別な思い入れのある 5 曲」から、一つずつ取り上げて、思いのたけを書こうと思います。今回は、私が一番好きなベートーヴェンの交響曲第五番ハ短調「運命」です。
私の「運命」の愛聴盤はフルトヴェングラーが 1947 年 5 月 27 日にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を振った一枚です。フルトヴェングラーはベルリン・フィルの三代目常任指揮者で、第二次大戦中の演奏活動を連合軍に糾弾され、演奏を禁止されてしまいます。そんな彼が裁判で無罪を勝ち取り、戦後、公開で初めてコンサートを開いたのが 1947 年 5 月 25 日です。そして、いわゆる戦後の復活コンサートの三日目に演奏された「運命」こそが、私の一番好きな「運命」になります。
フルトヴェングラーはベートーヴェンの「運命」を得意にしていた指揮者で、(CD のブックレットによると) 8 種類の録音があるそうです。そのため、録音年月日や管弦楽団が分からないと、どの録音の話をしているのか分からなくなります。こと、戦後復活ライブに関し ては、5 月 25 日に演奏された「運命」の録音も残っており、ファンの間ではどちらの演奏がすばらしいかが議論の的になっています。
私は 44 年のライブ録音、47 年 5 月 25 日と 27 日のライブ録音、そして 54 年のステレオ録音を持っていますが、やはり、一番は 5 月 27 日です。まず、他にない緊迫感。冒頭のダ・ダ・ダ・ダーンは 54 年のステレオ録音を初めて聴いたとき、こんな「運命」があるのかと高校生ながら驚きましたが、47 年 5 月 27 日はさらに迫力があって長い。これこそ、ベルリンの観客が何年も待っていた音なのだと思いました。そして、怒涛の第四楽章。一気呵成、テンポを上げながらコーダに突っ込む様は圧巻。録音時間だけを取れば 44 年のライブのほうが早いのに、こちらの方が速く聞こえるのです。
ベートヴェンの「運命」は第四楽章のコーダに向かって全てが集約されていくような音楽で、フルトヴェングラーの指揮は、それを最高の形で音にしてくれているような気がします。