最近、遅ればせながら米澤穂信の古典部シリーズを楽しんでいます。古典部シリーズは作者のデビュー作にして、現在 5 作の既刊が出ています。「ビブリア古書堂の事件手帖」や「万能鑑定士 Q の事件簿」と同じく「人の死なないミステリー」であり、学園物ミステリーとして上質なシリーズとなっています (早く続刊でないかな?)
既刊五冊の題名を順に挙げてみます。
- 氷菓 (2001)
- 愚者のエンドロール (2002)
- クドリャフカの順番 (2005)
- 遠まわりする雛 (2007)
- ふたりの距離の概算 (2010)
探偵役に「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」を標榜する折木奉太郎。ヒロイン・千反田える。「データベースは結論を出さない」と嘯く親友・福部里志。奉太郎の幼なじみで福部に恋する伊原摩耶花の四人がメイン・キャラクター。
心あたりのある者は
古典部シリーズはどれも面白いのですが、ミステリーというのはネタバレせずに紹介するのが難しい。そこで取り上げるのが、古典部シリーズ唯一の短編集「遠まわりする雛」から「心あたりのある者は」です。
登場するのは主人公・折木とヒロイン・千反田の二人。部室に二人が居た所、校内放送が一本。
「十月三十一日、駅前の巧文堂で買い物をした心あたりのある者は、至急、職員室柴崎のところまで来なさい」
この校内放送の内容から、どういう意味で放送が行なわれたのか推理を展開していくというもの。ミステリーを嗜む人なら、ハリイ・ケメルマンの「九マイルは遠すぎる」などを思い出すお題ではないでしょうか? 本短編は正にその系譜に乗った佳作です。
もちろん、謎を解き明かすにはこの発言の前後にある情報がないといけないわけですが、二人が思考し推論し解答へ至るところが読み所なわけです。実際、この短編は高く評価され、第 60 回日本推理作家協会賞短編部門の候補作になったとのこと。
一つの校内放送から謎解きする醍醐味。ミステリー好きにはお勧めの一品です。